職場でゲイとして生きること<20>

 明日からは高校時代と同じように、完全にホモ扱いされて生きていくのかなと暗澹たる気持ちでいた。

「それで神原って男が好きなの?」
「えぇ……もうバリバリに男が好きですよ」
「おぉ! 神原のこと応援するよ」
「ありがとうございます」

 もはや失うものは何もなかった。でもしばらくするとおかしなことに気がつきはじめた。

「それで神原って男が好きなの?」

 あれ……またこの質問が来た。もう何度も同じ質問をされて同じ答えをしてるのに、彼らの様子を見ていると、誰も真剣な感じでボクの言葉を受け取っているような気がしなかった。もしボクのカミングアウトを真剣に受け取っていれば、もう少し静寂があったり、気を使うような態度があってもいいのに、同僚達の様子からは微塵も感じることができなかった。もしかして、この人たちボクがカミングアウトしたことを本気にしてないのかな? その日の飲み会は漠然とした不安を感じながら終わった。

「それで神原って男が好きなの?」

 次の日に職場でも同じことを言われて、次の飲み会でも同じことを言われていた。やっぱり彼らの中では、ボクのことを本当にホモではなくて、ホモを装った人という認識のようだった。つまりボクのカミングアウトした発言は冗談と取られているようだった。悲しいのやら嬉しいのやらボクのカミングアウトとは、本気に受け取ってもらえず冗談として流されていた。ついでにゲイバーの誘いもなくなっていた。理由は「神原ってキャバクラとか苦手そうだしね」というもので、それ以降は冗談で誘われることがあっても、軽く断れば流されてしまう程度だった。

 ともあれボクはゲイであることがバレるという事態からは、奇跡的に免れた。でも、この日からボクの会社内でのキャラクターは、ホモを装ったキャラクターが確定してしまう。そして自社だけでなく、派遣会社や取引先の会社には光速のように噂が広まってしまう。そして五年後に転職するまで、この状況は続くことになる。

<終わり>