同性愛者の住宅事情<4>

 夕方、ボクは近所の友達の家に遊びに行って帰る途中、そのおじさんの家の前で立ち止まって耳を澄ませて家の中の様子を伺っていた。家の中から、テレビを見ているのか、よく野球中継のアナウンサーの声が漏れていた。夏になると縁側でうちわを扇ぎながら涼んでテレビを見ているおじさんの姿を見かけた。ボクは目が合うと気まずくて会釈だけして通り過ぎた。同じようにおじさんも会釈を返してくれた。

 おじさんの家に出入りする人は誰もいないようで、どこかの工場で働いているらしく朝は作業着に着替えて車で仕事に出かけて、夕方になると仕事から帰ってきて家に篭っているような生活を続けていた。休みの日は、ずっと家の中でテレビを見ているようだった。 

 あんな風に孤独な人生を過ごすのは嫌だな。ボクは大人になっても、あんな人生を歩まないよう気おつけよう。

 そう小学生ながら他人事のように考えていた。まだ中学生になる前で、ボクが同性愛に目覚める前の頃だ。

 ボクは中学生になって同性愛に目覚めた。そして年を重ねて大学生になると、ふと……そのおじさんの事を思い出した。大人になるにつれて、同性愛者として生きて行くことが難しいと感じて、将来は独身で生きて行く可能性もあると考え始めたからだ。

 ボクは大学から実家に帰る度に、おじさんの家の前を通り過ぎるようにしていた。おじさんは年を重ねて、おじいさんに変わっていて、昔と同じようにステテコ姿でテレビを見ながら縁側でくつろいでいた。定年を迎えて仕事にも行っておらず、一日中家にいるようだと母親から聞かされた。あのおじさんのことを気にしているボクのことを母親は不思議そうな表情で見て教えてくれた。

 小学生の頃とは違って、広く寂しい平屋に独りで住んでいるそのおじさんの姿は他人事ではなくなっていた。自分の将来の姿と重なって見えていた。

 そして社会人になって四年くらい経って実家に帰った時だった。あのおじさんが亡くなったことを母親から聞かされた。

<つづく>