住吉奇譚集<19>

 外に出ると、空は明けていて鳥の鳴き声が聞こえた。周囲の目が気になって急いで店から離れた。少し離れたところで振り返って見ると、どう見てもただの一軒家にしか見えなかった。まさかこの家の中で、年配の男性たちが激しい肉体的な関係を持っているようには思えなかった。

 またこの店に来るとしても、ずっと先だろうな……

 そう思いつつ店を後にした。

 ボクは西鉄薬院駅の方角に向かって住吉の住宅街をやみくもに歩いていった。そして住吉通りに出て柳橋を渡った。もはや前の晩のように西鉄天神駅まで歩く体力はなかった。柳橋を渡って、歩いて数分の場所にある定食屋に寄って朝ごはんを食べて薬院駅に着ついた。全く眠っていない状態だったので、薬院駅の階段を登るのに足を上げるのもしんどかった。駅のホームに出ると、一晩中飲んでいたと思われるサラリーマンや大学生が三十人くらいいた。みんなボクと同じように眠たそうな顔をして言葉少なく電車が到着するのを待っていた。

 しばらくすると電車がホームに入ってきたので、ボクは大牟田行きの普通電車の始発に乗って家のある方に向かった。席につくと食事をした後からか、あっという間に眠気が襲ってきた。

 なんだか変わった一晩だったな……

 ボクは眠気と戦いながら、この一晩のことを思い出していた。一晩に二軒も有料ハッテン場をはしごしたのは生まれて始めてだった。しかもボク自身は、全く気持ちよくなれていなかった。もはや何が目的で一晩中うろうろしていたのか分からなくなっていた。大橋駅を過ぎた辺りで、朝日が眩しいくらいに電車の中に差し込んできた。向かいの席に座っている乗客たちの大半がうとうと眠っていた。ボクは何度もあくびをしながら、この一晩の出来事を忘れうちに、メモ帳を取り出して書き込んでいた。そしてフラフラになって家にたどり着いて、昼過ぎまで死んだように寝た。

<つづく>