仕事に生きる同性愛者<7>

 社会人になって1年目は仕事に追われる日々だった。もともと文系からシステム業界に入ってしまったせいあって、仕事を覚えるのに必死だった。他の同期は工業系の学部などを卒業していることもあって、ある程度はシステムについて知っていたからもある。

「この設計書を読み込んでフローチャートで書いてください」

 そう先輩社員から課題を出されても、「そもそもフローチャートって何?」と固まっていた。ボクは恥ずかしながらフローチャートの書き方すら知らなかった。こそこそとフローチャートの書き方や記号の意味を調べて乗り切っていた。

「このデータベースから○○のデータを抜き出すSQLを書いてください」

 そう先輩社員から課題を出されても、「そもそもSQLって何?」と固まっていた。SQLというものすら知らなくて、こそこそと同期に質問しながら、その場で覚えて乗り切っていた。

 これでシステム業界を目指したのだから呆れたものだ……だから休日もシステム関連の勉強を頑張ってしていた。そして2年目になり3年目になってくると仕事にも慣れて来た。

 いつのまにか仕事に追われる日々から、仕事を追う日々に変わっていった。

 仕事に慣れてくると休日もシステム関連の勉強をする必要がなくなっていった。ただ……ボクは休日が苦手だった。これと言って趣味もなかったので時間の潰し方がわからなかった。いっそ休日も仕事場に行った方が気が楽だった。

 職場で帰り支度をしていると、よく同僚が子供の行事のことでボヤいていていた。

「憂鬱だよ……明日は子供をディズニーランドに連れて行かないといけないんだ」

 ボクは帰りの満員電車に揺られながら、明日はどうやって一日を潰そうかと考えていた。

 ボクにはこれと言って用事もないから、何か用事があるだけでも羨ましいですよ。

 憂鬱と言っていた同僚の顔を思い浮かべながら、そう考えていた。ボクには、誰かのために自分の時間を与えたりすることができるだけ羨ましかった。ボクの明日の予定は空白だった。自分のためにだけ使える時間が有り余っていた。でもその膨大の時間をどうやって有効に使えばいいのか持て余していた。

 孤独感を感じないようにするために、ボクは休日になると喫茶店で本を読んで過ごすようになった。それも一日に何軒もの喫茶店をはしごしていた。朝7時半から喫茶店→本屋で本を買う→喫茶店→本屋で本を買う→喫茶店→夜20時に帰宅まで繰り返し。ブラックコーヒーを飲みすぎてお腹の中はタプタプ状態だった。馬鹿丸出しだけどコーヒーを飲みすぎて吐き気がすることも多々あった。それに休日に本を読んで過ごしているのにも理由があった。本の世界に浸っていれば、孤独感をまぎわらせることができるからだ。同じように映画もよく見ていた。本を読めば時間はあっという間に過ぎていくし自分の現実を見ないで済んだ。ボクは休日になると自分の孤独な生活に向き合うことが怖くて、虚構の世界に浸って過ごしていた。

<つづく>