愛から遠く離れて<2>

「いいですよ」

 ボクは一緒に彼の家から出ることにした。今まで彼とは肉体関係が終わって1時間もすれば帰宅するようにしていた。彼の家に朝までいたのは、これが初めてだった。「コーヒー飲む?」と訊かれたので頷いた。彼は朝食のパンを焼きながら二人分のコーヒーを淹れてくれた。ボクらはテレビの前のテーブルに座って朝のニュース番組を見ながら食事をした。テレビでは芸能ニュースが流れてたんだけど、ボクは全く興味がなくて、彼が芸能人についてあれこれ話しかけて来るのを適当に相槌をしていた。朝食を食べ終わると皿を洗ったり、歯磨きしたりヒゲを剃ったりしていた。ボクは彼が出勤の準備をする様子を興味深く眺めていた。しばらくすると彼がスーツに着替え始めたので、ボクも自分の服を着て出かける準備をした。
 
「それじゃあ。行こうか!」

 ボクの目の前には、スーツを着た彼がいた。

「スーツ姿……かっこいいですね!」

 ボクは素直にスーツに着替えた彼の姿を見て感動していた。

「ありがとう」

 そう言って少し照れている年上の彼の顔が可愛かった。ボクはカバンを手にとって彼と一緒に玄関に向かって靴を履いた。そのまま外に出るのかと思っていると、彼が急に抱きついてきた。

「これって……新婚夫婦がしてるみたいで凄く恥ずかしいですよ」

 ボクは抱きついたまま照れながら言った。
  
「えぇ?いいじゃん?」といいながら、彼も照れながら笑っていた。

 彼の家は京都市内の四条大宮の裏路地にあった。彼は電車で通勤しているようで、ボクは近くの駐輪場に原付を駐めていたので家を出て大宮通りに出るとすぐに別れなくてはいけなかった。
 
「今日はありがとうございました」

 ボクは駅の改札口の前で頭を下げてお礼を言った。

「じゃ。またメールするね」
「はい。待ってますね」

 それから彼が駅の改札口をくぐってホームに降りて行くのを見送った。

 またメールするね……か。

 いつまでこの関係が続くんだろうと不安の気持ちを抱えていた。ボクにとって彼は好みのタイプではあるのもしれないけど、ボクは彼に恋愛感情は抱いていなかった。それはきっと彼も同じだと思った。だって恋愛感情を抱くには、お互いのことを知らなさすぎるからだ。

 ボクは家に帰ってシャワーを浴びてから大学に行った。そして授業を受けていると彼からのメールが届いた。

今日はありがとう。次の土曜日か日曜日の夜に会えない?
こちらこそありがとうございます。土曜日なら大丈夫ですよ。
じゃ土曜日の夜に俺の家に来れる?
分かりました。楽しみにしてます。
うん。こっちも楽しみにしてるよ。

 ボクはメールを打ち終えて、まだ彼との関係が続くことに安心していた。でも一方で「この先は何か進展があるのかな?」と、漠然とした不安を抱いていた。

 

<つづく>