愛から遠く離れて<5>

 それからボクは夜になると、パソコンの前に座ってチャットルームのサイトを開いて彼を待っていた。でもずっと待っていても彼は姿を現さなかった。「ボクは彼と話をしたかったけど、彼はそう思っていないのかな?」なんて思ったりもした。何度も画面の更新ボタンを押しては、ずっと彼が現れないか待っていた。それから待つのにも疲れて、ボクは先にツーショットで会話する「小部屋」に入って待っていた。自己PR文には、京都市内に住んでいる大学生で自分の年齢を書いていた。このプロフィールなら彼もボクだと気がつくはずだった。ただ先に部屋に入室して待っていると、全く別の人が次々に入室してきて話しかけてきた。ボクはその都度、「別の人と待ち合わせしてるんで!」とタイプして断っていた。

 それから数日経った。ボクは同じように先に「小部屋」へ入っていた。しばらく別のことをしているとパソコンから通知音がした。誰かがチャットサイトに入室してくると通知の音がするのだ。パソコンの前に座って「誰だろう?」と思って画面を見てた。

たかぽんさんが入室しました。

 入室したハンドルネームを見てドキドキした。

たかぽん:こんばんわ!
おみ:こんばんわ
たかぽん:ちょっと前に話したよね?
おみ:はい! たかぽんさんをずっと待ってました。
たかぽん:そうなんだ〜可愛いな!

 ボクは照れながらそうタイプした。だってボクらがタイプしている文章の下には、ボクと別の人とのチャットの会話文が残っていて「別の人と待ち合わせしてるんで!」と打って断った、ボクの文章が残ったままだった。きっと彼からも丸見えだったはずだ。彼とは何の待ち合わせもしてなかったのに、「別の人と待ち合わせしてるんで!」と断っているのを見られるのは恥ずかしかった。

たかぽん:俺も君と話しいと思ってたんだけど、仕事が忙しくて遅い時間帯に何度かサイトは見てたんだけどね。
おみ:すれ違ってたんですね。

 「あぁ……よかった。ボクのことが気になっててくれたんだ」と思った。それから前回にチャットで会話してから起こった近状を話していた。ボクは彼に実際に会いたいと思っていたけど、でもそれを伝える勇気がなかった。

たかぽん:ねぇ? よかったら今から会わない?

 ボクは画面を見て自分の目を疑った。そして反射的に返信した。

おみ:ボクも会いたいです。
たかぽん:明日も仕事だから遅くまでは無理だけど、俺の家まで来ない?
おみ:四条大宮ですよね。多分原付で15分くらいで行けます。
たかぽん:俺に会って見て君のタイプなら寝てもいいし、気が乗らないなら話だけでもいいよ。
おみ:ボクのことも会ってタイプじゃないならはっきり言ってください。
たかぽん:君もタイプじゃないならはっきり言ってね。
おみ:もし寝るとしてもあまり過激なことはできませんけど大丈夫ですか?
たかぽん:いいよ。俺もバックとかしたいと思わないから。
おみ:よかったです。病気とか怖いので初対面の人と過激なことをするのは怖くて。
たかぽん:四条大宮の○○○(コンビニ名)に着いたらメールをくれる? 迎えに行くよ。
おみ:分かりました。
たかぽん:じゃあ待ってるからね。
おみ:はい。また着いたら連絡します。

 ボクらはお互いにメールアドレスを交換した。そして身支度をして原付に乗って四条大宮に向かった。夜の23時を過ぎていて道路を走る車はまばらになっていた。

 

<つづく>