愛から遠く離れて<8>

 きっとまたメールが来るよね……

 ボクは彼と別れてから徐々に不安が強くなっていた。早ければ早朝に別れて午前中には「次に会う日を決めない?」と彼からメールが来ていた。ボクは講義中も携帯電話を傍に置いて彼からのメールを心待ちにしていた。でも結局、その日の夜になってもメールは来なかった。

 仕事が忙しくてメールする暇もないんだよね……

 昨日の夜に彼と出会ってから、今日の朝に別れるまでの彼の様子を思い出していたけど、不審に思ったのは別れる間際の一言だけだった。ただもう一つだけ気になったことがあった。

「そろそろ休みの日に遊びに行かない? 河原町あたりで食事とか一緒にどうかな?」

 前々回に会った時に彼が言った言葉だった。

「そうですね……でももう少しこのままでいませんか?」

 ボクは本当は嬉しかったんだけど照れてしまって、はぐらかしてしまった。後になって、もっと真剣に考えて答えればよかったと後悔していた。ただ同性の誰かとデート的なことをした経験もなくて、どう答えたらいいのか分からなかった。彼は「じゃあ……もう少しだけね」と笑いながら言った。でも今になって後悔してもどうにもならなかった。ボクはいつも後になってこう言えばよかったとか後悔してばかりだった。その場で気の利いたことを言うのが苦手だった。

 翌日も大学で授業を受けたりサークル活動をしている間、ずっと手元に携帯電話を置いていた。でも……翌日も連絡がなかった。不安は確定しつつあった。

 それからメールが気になりつつ一週間が過ぎた。でも彼からの連絡はなかった。もしかしたら以前のようにチャットサイトを見たら彼がいるかもしれないとも思ったけど、でもチャットサイトを見るのが怖かった。もし彼が違う人と会話しているのを見つけてしまうと、自分が捨てられことが確定してしまうからだ。

 ボクのどこが気に入らなかったんだろう……

 顔なのかな?性格なのかな?
 それともやっぱり……彼もバックとかしたかったのかな?

そろそろ会いませんか?

 ボクの方からも、そうメールを送ってみようかと思ったけど勇気が出せなかった。もしメールの返信が返って来なかったらと考えると怖かった。彼にボクの何が不満だったのかも訊いてみたかった。突然に連絡がなくなってしまい、ボクは自分の何が足りなかったのかわからなかった。もし指摘してもらえるのなら変えていきたいと思っていたけど、それを訊く勇気もなかった。

 それから大学の授業に出たり、アルバイトをしたりして、一ヶ月くらいの間、ずっと彼からの連絡を待ち続けた。

 もう少しでいいから時間をくれたら、好きになれたかもしれないのに……
 
 もし彼ともう一度会えるのなら、今度はボクの方から勇気を出して彼を食事に誘おうと決めていた。ただ、それから一ヶ月経っても彼からの連絡は来なかった。

 もう……これだけ待っても連絡がないのならダメだよね?

 ずっと寂しい気持ちで彼からの連絡を待っていたけど、ボクはそう思って、彼のことを諦めて次の人を探そうとした。「ボクの何が足りなかったんだろう?」という疑問を残したまま前に進もうと思った。
 
<つづく>