愛から遠く離れて<9>

 ボクは彼のことを諦めて、サポーター(京都市内で唯一の有料ハッテン場)に通い始めた。今になって振り返れば、もっと他に選択肢はなかったの?と思うけど、当時のボクは真剣に有料ハッテン場で誰かと会って恋愛関係を築けると信じて行動していた。

 ボクはサポーターに入ってから受付がある4階から3階のハッテンスペースに降りた。前にも紹介したけど3階のスペースは全体的に部屋が暗くなっている。すれ違う人の顔もはっきりと見えないくらいだった。廊下を歩いて行くと途中に大部屋や個室が並んであった。ボクは相変わらず有料ハッテン場に慣れていなくて、キョロキョロしながら挙動不審な状態で歩いていた。大学生という若い年齢もあって立っていると何人かがボクに興味がありそうな視線を送って来たけど、どうしていいか分からず無視していた。ボクは同年代の気が合いそうな人が来るまで廊下に立ってずっと待っていた。しばらくして奥の部屋の様子を見てみようと暗い通路を歩き出そうとした時だった。ボクは奥から出て来た若い男性とすれ違った。

 あれっ……今すれ違った人って……

 ボクは慌てて振り返ったけど、何となく後ろ姿が彼と似ていた。それにすれ違う際に一瞬しか見えなかったけど、どう思い返しても彼の顔だった。

 今すれ違った人って……たかぽんさんだったよね?

 ボクの側を通り過ぎた彼は、3階にある休憩スペースに行ったのか4階のハッテンスペースに移動したのかどちらかだった。ボクはそのまま3階のハッテンスペースの廊下に立って彼らしき人が戻って来るのをじっと待っていた。それから10分もすると彼らしき人が戻って来た。ボクは暗がりの中で目を凝らしてその姿を見つめた。

 やっぱり……たかぽんさんだ!

 彼はどんどんボクに近づいてきた。ボクは側を通り過ぎる彼から慌てて顔を隠した。彼は2、3秒の間だけど立ち止まってボクの様子を伺っているのが分かった。でも顔を隠しているボクの姿を「変な人?」という感じで首をかしげて通り過ぎていった。

 まさか……こんなところですぐに再会してしまうなんて……

 彼からの連絡が来なくなって諦めてサポーターに来たら、ちょうど彼も店に来ていて鉢合わせしてしまうなんて、こんな偶然が起こるとは夢にも思わなかった。しばらくすると彼は大部屋に入って行った。

 どうしよう……きっと部屋が暗くてボクのことに気がついてないけど、このまま店にいたら彼はボクの存在に気がつくかもしれないな。
 
 ボクは大部屋前の廊下に立ったまま、思い切って彼に声をかけてみようかと迷っていた。彼はボクの存在に全く気がついていなくて、大部屋の右端っこの布団に寝転がって毛布にくるまって寝ていた。ボクが声をかけようかと迷っている時、目の前を別の男性が横切って大部屋に入っていた。30代中盤くらいの刺青のある筋金の男性だった。たかぽんさんが寝ている布団の側に立って寝ている彼の顔を確認していた。それから股間に手を伸ばしてから、彼の体を舐めたりキスしたりしていた。さらに別の男性が大部屋に入って行った。30代後半くらいの少しお腹の垂れた感じの人だった。その人も布団の側に立って二人の姿を見ていたけど、途中からたかぽんさんの体に手を伸ばして、刺青の男性と同じように舐めたりキスしたりし始めた。それから2人の男性はたかぽんさんを相手に交互にバックから挿れて攻め始めた。

 ボクはただ廊下から呆然と彼らの姿を見ていた。

<つづく>