LGBTブームと気持ちの変化<4>

 一旦は行くと決めていたけど、1月21日が近づくに怖気付いてきた。

 そういえば……動画を撮影するって書いてあったし、顔をSNSで晒す訳にはいかないよね……

 ボクは職場でカミングアウトしていなかった。かと言って動画を撮影するのが目的なのに顔をは映さないで欲しいでは、その場にいても迷惑なだけだろう。「やっぱり声をかけなくて遠くから見るだけでもいい」と思った。「人が多くて雰囲気的に入り込めそうだったら顔を出せばいい」と思った。

 あれこれ言い訳を書き連ねてるけれど、正直な気持ちを吐露する。

 ボクはもう5年以上もゲイとしての素顔ままで、人前に姿を現したことがなかった。最後に人前で素顔を晒したのは前の職場の同僚の村上くんにカミングアウトした時だった。あれ以降、人前に素顔を晒したのは年に数回行く有料ハッテン場ぐらいだった。ただそれは夜中の薄暗い闇の出来事に限られていて数に入らないと思う。中学時代や高校時代にあれだけ人前でゲイとしての素顔を晒していたのに、大学時代ずっとゲイとしての素顔を隠してきた。

 人前で正体を隠してきたら……素顔のままでどう人と接していいのか分からなくて怖かった。たとえ誰とも話すことはできなかったとしても、遠くからでも普段の日常でゲイとしての素顔のままでいる人たちを見たいと思っていた。

 1月21日の朝。その日は福岡県は晴れていて冬なのに暖かかった。

 ボクは西鉄電車に乗って終点の天神駅で降りて西鉄中央改札口から出た。そのまま目の前の渡辺通りの交差点を渡って福岡市役所のほうに向かった。そしてアクロス福岡と天神中央公園の間を通り抜けて貴賓館の前を通り過ぎて中洲に入った。その道をまっすぐに5分くらい歩けば冷泉公園にたどり着く。

 天神から中洲に入ると街並みが突然に雰囲気が変わって夜の歓楽街という雰囲気になる。とはいえ時間帯は昼間なので街は閑散としている。おしゃれな天神と違って街を歩いている人たちも雰囲気も突然に変わってしまった。夜のお仕事をしてそうな男性や女性たちが眠そうな顔をして歩いている。ボクはそのまま足早に中洲の街を横切って冷泉公園にたどり着いた。

 目的の冷泉公園に着いて腕時計を見ると12時5分だった。集合時間は12時半だった。

 これは……かなり早く着いてしまったな。
 
 ボクはやることがないので公園内を散歩した。冷泉公園の真ん中には白い壁の記念碑がある。以前、何かの文章で読んだけど冷泉公園に辺りは空襲による戦死者が多くて、その戦死者を弔うために記念碑を立てたらしい。ボクはその記念碑に刻まれた人の模様を眺めていた。
 
 ここまで読んでると冷静そうに見てるかもしれないけど、何度か「やっぱり怖いし帰ろうかな」と引き返そうかと思っていた。でも「とりあえず遠くから見るだけ」と思い直して公園にとどまっていた。時折、周囲に目を移すとそれらしき男性が一人で公園を歩いているのに気がついた。

 もしかして参加者かも……

 そう思いながらドキドキしつつも目を合わせないようにしていると、そのまま男性は公園を横断して出ていった。落胆して時計を見ると12時15分になっていた。

 そろそろ誰か来ないかな……

 公園には子供連れの家族やホームレスのような人が目につくだけで、それらしい人がいても公園内をランニングしたり、とても何かイベントが始まる前には見えなかった。

 もしかして人が集まらないから中止になったりしてるのかな……

 そんな心配をしている時だった。公園に2人の男性が入ってきたのが目についた。
 
<つづく>

 

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