ゲイとして生きる君へ

中学時代に同性愛に目覚めカミングアウトしてました。過去や現在のことを綴っています@福岡

それでもボクは盗ってない<9>

 修学旅行の話から少し前……高校2年後半に話は戻る。

 問題だった体育の時間。

 ボクは体育の授業のある日を全て休むことはできないから授業を見学することにした。ただ問題は体育の先生が見学を許可してくれるかどうかだった。

 体育の先生は学校内で一番の暴力的と恐れられていた。どこかの体育系大学で「アメフト」か「柔道」のどちらかをしていたと噂されていた。ガチムチのマッチョな先生で何人かのヤンキー生徒を公衆面前でボコボコに殴ったりしていて、どこの学校でも1人か2人はいる番犬のような先生だった。失礼ながら見た感じははっきり言ってゴリラに近かった。生徒の間では「脳みそも全部が筋肉でできている」と陰口を叩いてた。ボクがゲイ界隈で大人気のガチムチのマッチョなタイプが苦手なのは、この先生が鼻血が出るほど生徒をボコボコに殴るのを何度も目撃してしまったからかもしれないと密かに思っている。

「あの……体調悪いんで体育を見学したいんですけど……」

 ボクはボコボコに殴られるかもしれないので、まるで貧血気味のか弱い少女のような顔を装って(つもりだけど)恐る恐る言った。

 こいつ何を隠してるんだろう……

 まさかホモ扱いされて同級生のいじめに近い扱いを受けてるんです!

 そんな正直な事情を打ち明ける訳にはいかなかった。

 先生は疑わしい目でしばらくボクを見た。ボクは蛇に睨まれたカエルのようにゲロゲロ状態だった。でも結局は何も問い詰めることもなく「分かった」と見学することを許可してくれた。殴られることを密かに覚悟していたので、先生が許可してくれた安心感で泣きそうになった。ボクはひたすらにか弱い少女になりきって演技していた(つもりだけど)。そもそもボクがかなりの頻度で学校を休んでることは知ってたようで、なんらかの事情があると考えたようだった。なんとなく先生の態度を見ていて妙なゴタゴタに巻き込まれたくないといった感じがした。

 それに高校3年が近づくにつれて、体育の授業を見学し始めたのはボクだけではなかった。大学に進学する生徒が大半だったから受験勉強とは全く関係がない体育の授業を真面目にする生徒なんて少なかったのだ。先生も毎年恒例のようで既に見学が多くなるのを諦めているようだった。見学者が10人以上いるような酷い時もあった。ボクはどさくさに紛れて体育の授業を見学しまくっていた。

 そんなある日のことだった。体育の授業が始まる前の体操服に着替える時間だった。ボクは珍しく体育の授業に出席しようと思って誰にも見られないように、こっそりとタイミングを見計らって体操服に着替えて運動場に向かおうと教室から出ようとしていた。

「あれ……やっぱり俺の体操服がない!」

 教室の後ろのロッカーの前で、そう叫んでいる生徒がいた。教室の残っている生徒は「何事?」という感じで、いっせいに彼の方を向いた。

「体操服? 家にあるんじゃない?」
「カバンの中とかは?」

 周囲にいた何人かの生徒が、叫んでいる生徒に声をかけた。でもロッカーの中の物を全部出しても体操服が見つからなかったようだ。

「いや……学校に無かったから家にあるかと思って探したけど家には無かった!」

 みんなは「それは気の毒だね」という感じで、体操服を無くして困っている生徒を見ていた。体操服を無くした本人は「仕方ないから体育は見学にする」と言って制服のまま運動場に向かうことにした。もう一度、家に帰って体操服を忘れていないか探すつもりのようだ。

 結局、彼は翌日に登校して「家にも無かった」と嘆いていた。

「マジでどこに置き忘れたんだろ……」

 そうボヤいていた。「残りの約1年ある体育の授業をどうしよう」と困っていたけど、他のクラスの生徒から体操服を借りて乗り切ろうと話をしていた。「そのうちどこかで見つかるだろう」という楽観もあったようで、どうやらそれで自己解決したようだ。

 それから数日後の体育の授業だった。

「あれ? 体操服がない!」

 そう言って先日とは別の生徒が叫んでいた。「え? また無くなったの」と生徒の何人かが騒ぎ始めた。ボクは遠くから彼らの会話を聞きながら「へぇ〜また体操服が無くなった人がいるのか」と他人事のように気の毒に思っていた。

「誰かが盗ったんじゃない?」

 生徒の一人がそう言った。

「いや……盗る奴いないだろ?」
「体操服を集める趣味とかないだろ?」
「そうそう! 男の体操服とか盗む奴いないって!」

 体操服を無くした本人も含めて何人かが笑いながら会話をしていた。その瞬間だった「あれっ!?」という感じで笑っているメンバーの一人が何かを思い当たったように体をビクッとさせた。その瞬間、遠くから見ているボクも何だか嫌な予感がした。その生徒の視線が急にボクの方に向いて目が合ってしまった。

<つづく>