漫画『しまなみ誰そ彼』の感想

 このサイトで何度も触れているけど、昨日で『しまなみ誰そ彼』(作者:鎌谷 悠希)の連載が終わった。

 まずは簡単にあらすじを紹介します。

 主人公の「要介(かなめたすく)」は高校1年生のゲイの少年。物語は主人公が飛び降りて自殺しようした夏から始まる。自殺しようとした経緯は、スマホでホモ動画を見ていたのを、同級生に気づかれたからだ。自殺しようとした主人公は「誰かさん」と出会って談話室に導かれる。その談話室は、ゲイやレズビアンなどの当事者が集まる場所だった。要介は同じ高校の同級生の「椿くん」に片思いしている。この椿くんも何らかの悩みを抱えていて、主人公と同じように談話室のメンバーに加わっていく。

 夏から始まった物語は、翌年の春の結婚式を終えて、再び夏に戻って終わる。この漫画は、ゲイの主人公の1年間にわたる成長物語だ。

 もう一人の主人公の「誰かさん」に関しては、以下の文章に感想を書いているので、そちらを読んで欲しい。

 

 それとボクは以前、『しまなみ誰そ彼』について以下のような感想を書いた。

『しまなみ誰そ彼』というゲイの主人公が登場する漫画本がある。その漫画の中で、ゲイ、レズビアン、トランスジェンダー、アセクシャルなどの登場人物(本当は、そんなに単純な言葉で人を区別できるとは思っていないけど、ここであえて使わせてもらう)が集まっている「談話室」という場所がある。特に義務付けされている訳でもなく、暇な時に気が向いたら寄って集まれるような場所。別にLGBTの関係者に限って集まる場所ではない。最近は、小さい子供も通うようになっている。ところでこの漫画本のゲイの主人公は、「談話室」とは別に新しくリフォーム中の建物を、どんな場所にするのか決めるように任されている。ボクは主人公が、どんな場所にするのか、かなり関心があって漫画本を読んでいる。恐らく……主人公が「談話室」に続く、リフォーム中の新しい建物をどういった場所にするのか決める所で最終回になるんだろうな……と漠然と思っている。

 残念ながら最終回でも、ボクが期待した「談話室」に続く、リフォーム中の建物の「居場所」を、主人公がどんな場所にするかに関しては描かれなかった。

 ただ、それでよかったのかもしれないと思う。

 あえて描かなかったことによって、ボクはこうやって感想を書きながら、あれこれと想像して楽しむことができる。それに簡単に答えの出るようなものでもないと思う、きっとゲイの当事者でも、求めている「居場所」は人によって違うだろうから。

 この物語では、主人公の要介と同じゲイの登場人物が、もう一人いる。それは「チャイコさん」という年配の男性だった。

 ボクはチャイコさんを見た時から、「なぜ主人公と同じゲイの人を登場させるのに、こんな年配の男性のキャラクターを登場させたんだろう?」と疑問に思っていた。「主人公と同年代か、少し年上ぐらいのキャラクターでもいいのではないか?」と思っていた。そうした方が、「主人公との会話も弾むだろうし、面白い展開にできるんじゃないだろうか?」と思っていた。

 ただ、最終話を読んで、ようやくチャイコさんのような年配のゲイを登場させたのか、作者の意図が分かった気がした。

 チャイコさんには付き合っている男性がいる。その人の名前は「精一郎さん」。この物語の舞台となる街で、二人は一緒に生きてきた。

 最終話では、精一郎さんはチャイコさんに看取られながら亡くなってしまう。

 そして、この二人の別れのシーンの後に、要介や椿くんや談話室メンバーのエピローグが始まる。

 この物語の最後に出てくる「要介の笑顔」と、亡くなる瞬間の「精一郎さんの笑顔」が、なんとなく似ているように感じた。

 もしかしたら、作者は主人公の要介や椿くんの成長と一緒に、二人の最後の場面も同時に描きたかったのかもしれないと思った。チャイコさんと精一郎さんに、主人公の二人の老後を投影しているように思った。きっと作者は、ゲイであることに向き合って生きることを始めた「少年の姿」と、ゲイであることに向き合って生きた「老人の姿」を同時に作品の中で描きたかったんだと思う。

 ただ、そう思う一方で主人公の二人は、チャイコさんと精一郎さんとは別の人生を歩んでいくことになるだろうと思った。それは彼らが談話室という「居場所」に出会えたから。

 この物語の舞台は、広島県の尾道市。

 ボクは、このサイト内で中学時代や高校時代の思い出を書く中で、よく故郷の「河川敷」について書いている。河川敷で好きな男性すれ違ったこともあった。一人で泣いたりしたこともあった。

 その川は瀬戸内海に向かって流れている。

 ボクはこの物語の舞台と同じく海の匂いがする瀬戸内の街で育った。漫画の中で描かれている風景は、ボクが育った街と少し似ている。

 最終話を読んだ後、「要介はその後も瀬戸内の街に住み続けたのだろうか?」と思った。

 ボクは年始以降、全く故郷に帰っていない。今後も帰省する予定はないし、もしかしたら年末まで帰らないかもしれない。瀬戸内の田舎街は、ゲイの人にとって生きづらいのを知っている。ただ『しまなみ誰そ彼』を読んで、故郷の海の匂いが懐かしく思えてきた。

 

追伸:半年以上かかって、ようやく『しまなみ誰そ彼』のレビュー記事を書くことができました。連載終わっちまった━━━━ヽ( `皿´ )ノ━━━━要介 LOVE