ノンケに生まれ変わりたい<23>

大学を卒業して彼女は先に京都から引っ越すことになった。彼女が乗ったバスを見送った後、長いメールを受け取った。

今まで一緒にいてくれてありがとう。これからもよろしくね。

そう書かれていた。

あれから、10年以上の時間が流れた。

彼女は未だに独身でいる。

ボクも未だに独身でいる。

これまで生きてきて彼女ほど仲良くなった女性はいなかった。

ゲイでも女性と結婚して生きている人がたくさんいる。

ボクも有料ハッテン場で多くの既婚のゲイと出会ってきた。女性に性欲を感じないのに結婚している人も多くいた。「性欲は有料ハッテン場で処理して帰る」と言った人もいた。

昔、父親や母親の年代の人たちは当然のように結婚していた。ほとんど独身の男性なんていなかったはずだ。田舎では周囲が独身でいることを許さない環境だったと聴いた。でも今と同じくらいの割合でゲイの人たちもいただろう。きっと自分がゲイなの隠して結婚して生きてきたに違いない。

もしかしてボクだって同じことができたのかもしれない。ゲイであることを隠して、ノンケの振りをして女性と結婚することができたのかもしれない。

でもボクはその選択肢を選ばなかった。

いや……選ばなかったというよりも選べなかった。

あれだけ仲が良くて、好きだった彼女ですら愛することができなかったんだから。

別にゲイになったことに後悔はしている訳じゃないけど、家庭を築いてみたいと思った時期はある。

今は職場の女性から声をかけられることもあるけど、もう10年も経てば、声すらかけてもらえなくなるだろう。手遅れになる前に、そういった選択をするべきではないかと何度か頭をよぎったこともある。

どうやら彼女も結婚という選択を取るつもりはないようだ。

もしかしたら、彼女ならゲイであることを打ち明けても付き合ってもらえるかもと思ったことがある。世間には同性愛者であることをカムアウトしても夫婦のままでいる人たちもいる。

でも、そんなのボクの一方的な勝手な都合だ。

ボクは根っからのゲイだった。

嘘でもいいから女性を愛することができなかった。

ボクは彼女と出会って、女性を愛することが無理だと知った。彼女はノンケになることなんてできないし、ノンケの振りをすることさえ無理だということを、ボクに教えてくれた。

<終わり>