絶対に会えてよかった<40>

ヨウスケさんのアパートを出て別れた後、待ち合わせの場所のコンビニに戻って原付を回収した。それからボクの住んでいたアパートまでかなり距離があったんだけど、考え事をしながら原付を手で押して歩道をトボトボと歩きながら帰っていた。

途中、お腹が空いてしまって目についたファミレスに立ち寄って、軽く何か食べることにした。もう日付はとっくに跨いでいて、市内の大通りを走っている車もまばらになっていた。

彼はコンビニ前まで見送ってくれた。

ボクがイッてしまった後は、やっぱり彼の体を全く触らせてもらえなかった。

「君が女装してくれる気になったらまた会ってあげるよー」

と、ボクの心の中に楔を打ち込むかのように彼は別れ際に言った。まるでボクの奥底で眠っている欲望を見透かしているかのような言葉だった。

ファミレスに入ってみると、深夜にもかかわらず近場の大学の学生たちで溢れていて男性や女性がキャーキャー騒いでいた。適当に空いている席に座って、料理が運ばれて来るまで、鞄から本を出してパラパラとページをめくっていたけど、さっき彼と寝たことを思い出してばかりで全く集中できなかった。

出会ったばかりの人の前で、ずっと隠していた肉体的な欲望の大部分を丸裸にされてしまった。

そんな事実を思い出すと、恥ずかしくて顔を隠したい思いになった。

近くの席で騒いでる大学生たちも、まさかすぐ近くの席で神妙な顔をして本を読んでいる大学生が、ついさっき隠していた恥ずかしい部分を丸裸にされて、しかも女装までしろと言われたなんて思いをしないだろう。

ボクの心の中では、

「女装なんて絶対にできない」

という思いと、

「彼に抱かれたい」

という思いが錯綜していた。

我慢して恥ずかしい思いに耐えて女装したら彼はもう一度抱いてくれるのかと考えると、どうしたらよいのかすぐに決心がつなかった。

ボクは調教とかそういった行為には興味がないと思ってたんだけど、ヨウスケさんと出会ってから、なんとなくそういった行為の魅力が分かった。この時、ボクは間違いなく彼に調教されている気分になっていた。

食事を済ませてから、また本のページをめくりながら考え事をしていると、

もしかしたら彼の本当の願望は「ボクを女装させるということ」ではないのかもしれない。

と思った。

こうやって「ボクが苦しんだり恥ずかしいと感じさせること」の方が、彼の本当の願望なの
かもしれないと思った。

これは勝手な推測で根拠はない。でもそう考えた方が辻褄が合うような気がした。

彼にとっては、女装させた相手と寝ることが目的じゃなくて、女装させて羞恥心を感じている相手の姿を見たいという目的だと考えると「ストッキングを買って来て」とお願いしてきたことなどの説明がつくような気がした。

彼は間違いなくボクの好みのタイプだった。

もし彼が好みのタイプじゃなかったら即座に断っていたと思う。

彼の別れ際の言葉は、ボクの欲望に強く響いていた。

<つづく>