絶対に会えてよかった<41>

彼と出会った夜から数日が経った。ボクはいったって普通の大学生活に戻っていた。

これはゲイの大半がそうだと思うけど、自分がゲイだなんて自覚して生きている時間なんて、一日の中で、そんなに多くはないと思う、

ボクにとって自分がゲイだと自覚する時間は言えば、ゲイブログの文章を書いている時間。ゲイの方とメッセージのやり取りをしている時間。ゲイ動画を見てオナニーをするなど性欲を処理する時間。街中で好みのタイプのノンケ男性を見てときめいた瞬間。それくらいだと思う。

それ以外の時間は、ノンケ男性と変わらずに社会人生活をしていたり学生生活を送っているだけだ。

大学時代にゲイだと自覚するメイン時間は夜になってからだった。夜になって京都市内のどこかでゲイ仲間と会っていた。社会人になってゲイ活動は鳴りを潜めてしまったので、ボクにとって大学時代がゲイ活動を一番していた時期だった。

毎日、毎時間、自分がゲイであることを自覚して悩んだりなんかしなていない。そんな深刻な日々を送っている訳じゃない。

あれからヨウスケさんからメールは来なかった。ボクは気になりつつも女装する決心がつかなくて彼へメールを送ることはできなかった。

ボクには女装が似合うとか、似合わないとか、そんな話じゃなく女装したいという願望が全くなかった。ただ好みのタイプの彼に抱かれたいという願望だけは強くあった。

そんな願望を胸に抱えたまま、普通の大学生活に戻って講義を受けているフリをして、いつものように小説を読んでいた。

少し話が逸れちゃうけど、大学生活も慣れてくると、授業のつまらなさもあって、教室の後ろの方に座って本ばかり読んでいた。もはや授業時間の大半は、読書時間と化していた。出席カードを出すために出席していて、先生が試験に出すといったポイントが耳に入ってくるとノートに書いてるだけで、成績も「A判定」だの「B判定」だのどうでもよくて、ほとんどが「C判定」だったような気がする。とにかく単位落とさないギリギリの判定結果が並んでいた。もう単位さえ取れれば、どうでもいいという、完全にグータラ状態になっていた。過去にも文章に書いているけど、ボクにとっての大学生活は、大学外の活動がメインになっていた。それに講義自体も単位が取れるギリギリくらいまで休んでいた。

そんな状態で、周囲の目も気にせずに机の上に出して本を読んでいるとポケットの中の携帯電話が震えた。机の下に隠したまま携帯を開いてみるとメールを受信していた。

今日の夜だけど時間ある? もしよかったら部屋に来ない?

メールの送り主はヨウスケさんだった。

ボクは彼のメールを読んだ瞬間に、あの晩の出来事を思い出した。そして講義中に関わらず興奮して勃起してしまった。

大丈夫です。何時に行けばいいですか?

もう一度彼に抱かれたいと思っていたボクに迷いはなかった。

じゃあ21時過ぎに来て。今は授業中?
そうです。でも授業は無視して本読んでます。
こっちも授業中だよ。今日の夜は可愛がってあげるからね。

ボクは彼とメールのやり取りをしながら、広い教室に沢山の生徒がいる状況で勃起するという背徳感を味わっていた。そんな興奮を隠すように本を読むことに集中したけど、紙に書かれた文字は頭の中に全く入って来なかった。ファミレスの夜と同じように、パラパラとめくって本を読むふりしかできなかった。

彼のメールには「女装」の件は一言も触れてなかった。それに「ストッキング」を買って欲しいといった内容も書かれてなかった。そういった彼の願望が無くなって、ボクと付き合ってもらえるのかもしれないという期待が胸をかすめた。

ボクは20時を過ぎてから約一週間前の夜と同じように原付に乗って彼のアパートの向かった。

<つづく>