絶対に会えてよかった<54>

彼に案内されて部屋の中に入って最初に気がついたのが、窓から見える京都市内の夜景が綺麗なことだった。

「綺麗ですね!」

ボクは田舎育ち丸出しの状態で、窓から見えるビル街の夜景に感激してしまった。

その窓の近くには高級そうなテーブルが置いてあった。テーブルの上にはパソコンが置いてあって周囲にはビール缶や資料が散乱していた。

その資料の間にレントゲンの写真のような物があるのに気がついた。

もしかして医療関係者なのかな?

そんな疑問を感じつつも、それとなく部屋の中を観察していると、クローゼットにスーツ一式がかけられていた。そしてスーツをかけてあるハンガーに「ネームプレート」も一緒にかけられているのに気がついた。

そのネームプレートを見ると彼の「氏名」や「勤務先の病院名」が思いっきり書かれていた。

「あの……本名がバレてますけど」

ボクは気まずくなってクローゼットを指差した。この場でネームプレートの存在に気づいたことを指摘しないと、彼が別れた後になって氏名や勤務先がバレたことに気がついて慌てると思ったからだった。

「あぁぁーあ!」

彼は慌ててネームプレートを隠そうとしたけど「もう手遅れか!」と言って隠すのを諦めた。「ちゃんと隠さないといけないですよ!」と注意をすると「しまったしまった」と言って、彼のテンションが下がってしまった。

彼の氏名も勤務先名もバッチリ見ちゃったな。もう忘れられないよね。

こっちだって見たくて見たわけじゃない。ちゃんと隠してない方が悪いのだ。でも彼を見ると後悔丸出しの顔をして呆然と立っていた。彼の完全なミスで自業自得とは言え、なんだか可哀想になってきた。

それになんだか、この「抜けっぷり」というか「のんびり」した彼の雰囲気が年上相手なのに「可愛い」と思ってしまった。

しょうがないな……でも彼なら大丈夫だろうな。

ボクは鞄の中から財布を取り出して、カード入れの中から「学生証」を取り出した。

「はい。これがボクの本名と大学名です」

そう言って彼に学生証を渡した。その学生証には証明写真が貼られていて、ボクの氏名や大学名。所属学部。生年月日などが書かれていた。

「お互いに本名と所属先を知ったから御愛顧ですよね」

彼は学生証を受け取って「◯◯◯◯君って言うんだね」とボクの本名を読み上げた。それからボクの方も「◯◯◯◯さんって呼びますね」と照れながら言って、お互いに本名で呼び合うことになった。

ボクは大学生になってから顔と氏名を晒すのは、いつも「ノンケの仮面」をかぶった状態だった。でも彼の前で久しぶりに「ゲイの素顔」のままの状態で顔と氏名を晒した。

<つづく>