ライナーノーツ<17>〜10年ぶりのカミングアウト〜

 「ボクにとってあの場所は分岐点だった」

先日、熊本に行った。最後に行ったのは2018年4月1日なので約11カ月ぶりに熊本に行ったことになる。彼と一緒に熊本県内をあちこち回った後、途中から熊本市内に立ち寄った。そんな中、彼から「この店で昼ご飯を食べよう」と言われてスマホの地図を見た。

彼が地図で示したのは『辛島公園』の近くにあるビルの谷間だった。

辛島公園の南に肥後銀行のビルがある。ボクらはそのビルの谷間にある飲食店で昼食をすることになった。

ボクは4月1日にパレードの列を見送って彼女と別れた後、そのビルの谷間でタクシーに乗って熊本駅まで帰った。スマホの画面を見ながら「あの場所か……」と頭の中に焼き付いていた景色がすぐに浮かび上がってきた。

その場所に着いてから、ボクが何の変哲もないビルの谷間の写真を熱心に撮っているのを彼は不思議な顔をして見ていた。でも「後で文章を読んでくれればいいや」と思ったので、その場では詳しく説明するのは止めた。まさか泣きながらタクシーを乗った場所なんて恥ずかしくて言えなかった。

そして昼食を済ませてから辛島公園に立ち寄った。

彼女と話したベンチには昼休み中の若い女性が座って食事をしていた。まだ辛島公園の桜は咲いていなかったけど、今年は暖冬なので後2週間か3週間もすれば少しは咲き始めるだろう。それから熊本駅にも立ち寄った。彼女と別れてタクシーに乗って駅に戻ってから、そのまま喫茶店に籠って『10年ぶりのカミングアウト』を書いた。構内の改修工事は終わっていてすっかり様変わりしていたけど、ボクが座って文章を書いた隅の席は、そのまま残っていた。

前日の夜に繁華街を散歩していて、彼から「あれが『白川公園』だよ」と言われた。

熊本のパレートには参加しなかったけど、まさかパレードの到着地点になる公園に11カ月後に到着するとは思わなかった。彼から『白川公園』という言葉を聞くまで、すっかり忘れてしまっていた。ボクは「こんな公園だったのか」と思いつつも夜の公園を歩きながら何枚か写真を撮った。あのままパレードに参加していれば4月1日には出発点の『辛島公園』から終着点の『白川公園』に到着していたはずだ。

でもボクはパレードに参加せず脇道に逸れることにした。

それにしても「約11カ月近くも寄り道をしてから、ようやく『白川公園』に到着するなんて」と自分のことながら呆れてしまった。

思い返せば、彼女との出会いはボクにとっては分岐点のようなものだった。

彼女と話す機会無かったら、ボクはとりあえずパレードが終着点に着くまで見届けただろう。彼女と話すことができたから、何の未練もなく公園を後にして別の脇道を歩くことができたように思う。

ボクらは「ある目的」があって熊本に来た。

恐らく来年も同じ時期に同じ理由で熊本に来るだろう。脇道を歩き出して11カ月間。まさか同じ場所に誰かと一緒に立つことができるなんて想像もしていなかった。

「また来年も来ましょうね」

そんな約束を彼と交わした。

次に同じ場所に立つ時、ボクはどんな心境で立っているのだろう。

そんな楽しみを抱きながら、あの場所に何か不思議な縁のようなものを感じている。

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