ライナーノーツ<19>〜恐るべき子供たち〜

「兄弟の間にある感情をなんと言えばいいのだろう」


この話に出てくる兄弟だけど、ボクは彼らをゲイだとは思ってはいない。


全ての兄弟がそうだとは言えないけど、兄は弟に対して、弟は兄に対して、愛情に近いどこか不思議な感情を抱くことがあってもおかしくないと思っている。


ボクには兄が一人だけいる。


兄の性格は少しキツイけど、弟のボクの性格は少しおっとりしている。そんなお互いの性格の相性がいいのか喧嘩らしい喧嘩をしたことがない。子供の頃、同級生に「兄弟の仲はどうなの?」と質問したことがあるけど、「小学生になってから一度も会話したことがない」とか「家の廊下ですれ違っても睨み合っている」とか、完全に関係が破綻している兄弟が何人かいた。ボクら兄弟は仲が良かったので「そんな兄弟がこの世にいるのか」と知って激しく驚いた。


小学生の頃、ボクは兄から愛情に近い感情を注いでもらっていたと感じている。かなり可愛がってくれていた。そしてボクは子供の頃からやること、なすこと兄の真似ばかりしていた。趣味にしても読書にしても兄から少なからず影響を受けていた。兄の影響から独り立ちできたのは、大学生になって独り暮らしを始めてからだ。


兄が東京の大学に入学して、一度だけ東京に遊びにいったことがある。大学近くの駅のホームを一緒に歩いている時に兄の友達とすれ違った。兄は「これが弟。可愛いでしょ?」と言って、ボクのことを友人に紹介した。ボクは「そんな紹介は止めて欲しい」と戸惑ってしまった。でも兄の顔を見ると真剣に言っているのが分かった。とても恥ずかしかったけど、今になってみるとボクのことを本当に可愛がってくれていたのだと思える。


ボクは家族内でずっとイジられキャラだった。のんびりした性格な上に、家族の中で一番の年下のポジションだったし、親戚の中でも、母方の実家に行ったら一番下の年齢だった。父方の実家に行ったら、下から二番目の年齢だったので、親戚の集まりでもイジられることが多かった。


最近、そんなイジられキャラのポジションを甥にゆずることになった。


子供の頃、父親や兄からイジられるのを煩わしいと感じたこともあった。でも大人になってから、イジるという行為も愛情の一種だと感じられるようなった。イジられて泣きながら文句を言っている甥を見て「やっとイジられるポジションから卒業できたな」と思いつつ「お爺ちゃんもお婆ちゃんもお父さんもお母さんも君が大好きなんだよ」と思っている。


兄は二人目の子供を作る予定はないようだ。そしてボクはゲイだから子供を作ることはないだろう。


当分の間、甥はイジられキャラのポジションに座ったままだろう。


皆からイジられて文句を言っている甥の姿を、ボクは子供の頃の自分の姿と重ねて苦笑いしながら見守っている。

 

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