おのぼり二人紀行<4>

彼と無事に福岡空港で落ち合うことができてから、地下鉄の改札をくぐってエスカレーターに乗って航空会社の窓口に向かった。

 

僕が「歯磨きとタオルはちゃんと持ってきたよ」と話している途中で、彼が「そういえばオナホールを持ってきてない!」と言い出した。「コラっ!」と言いつつ僕も押し入れの中のオナホールを見て持っていこうか迷ったことを思い出した。「そんな物を持ってきて手荷物検査に引っかかったらどうするの?」「オナホールですって正直に言えばいいでしょ?」「ローションって液体扱いになって検査にひっかかるのかな?」「ローションは保湿クリームとか言えば大丈夫なんじゃないかな」とか、二人してアホ丸出しの会話を繰り広げながら、チェックインをしてから2階の手荷物検査に入った。

 

僕らの会話の内容は不審者丸出しなのだけど、実際には怪しい物を持ってこなかったおかげで何もひっかかることなかった。そして搭乗口に無事にたどり着いた。

 

登場案内までまだ1時間近くあった。僕は空港内のドトールでコーヒーを買って搭乗口が見える辺の椅子に座って、案内が始まるまで彼が持ってきた本を一緒に読みながら待っていた。

 

本のタイトルは『日本の中のインド亜大陸食紀行』(著者:小林真樹)だ。

 

なんで彼がこの本を買って読んでいるのかと言うと、その理由は後で分かってくると思う。

 

僕らが関西ではなく関東に行くことに決めた理由の一つが、この本にあったりする。彼は既に読み終わっていたらしく「この辺を読んでみて」とお勧めのページをめくって教えてくれた。その本には福岡に関する情報も書いてあり、僕らが行ったことのある見覚えのある場所が写真付きで紹介されていた。本を読みながら話していると、あっという間に時間は過ぎて搭乗案内が始まった。

 

福岡空港発。成田空港着。飛行時間は約1時間40分。

 

その日の福岡は晴天で風もなかった。運が良かったのは通路側の席だったことだ。窓側の席に座っていた人はシャッターを離陸前に下ろしてしまった。窓側の席だと地上が見えてしまう。見ない方がいいのは分かっているけど、やっぱり誘惑に駆られて見てしまうのだ。

 

機体が加速して斜めに傾いて「怖えぇーーー」と、ビビりまくっていると彼が僕の手をこっそりと握ってくれた。それから「めずらしく冷や汗をかいている」と言った。「そうですか?」とポーカーフェイスを装いつつも「時計の針が後何十周回ったら到着するんだろう?」とか「もう10周くらいは回っただろうか?」とか早くも考えていた。

 

とはいえ、やっぱり彼と一緒だと心強かった。死ぬにしても独りじゃないと考えると心強かった。

 

機体が旋回して安定すると少しは安心したけど少しでも揺れるとビビってしまう。彼と雑談を続けて時間が過ぎるのを待った。彼の持ってきた本は気を紛らせるのにちょうどよかった。

 

しばらく雑談してから彼はカバンの中から耳栓とアイマスクを取り出して身に着けて寝てしまった。僕は「飛行機に慣れている人って羨ましいな」と思いながらも彼の持ってきた本を読み続けたけど、大体の箇所は読んでしまったので、今度は自分が持ってきた本をカバンから出して読みながら時間をつぶした。

 

そんな感じで飛行機に乗っていることを考えないように必死だった。

 

<つづく>