おのぼり二人紀行<11>

最初の頃、彼も「ネパール料理店に行きたい」と言ったことがなかった。

 

僕自身は以前から滅多に外食をしないので、あまり店を知らない。彼とスマホで調べながら日本人がよく行くなるべくオシャレな感じの店を見つけて行っていた。彼はそんな僕に合わせて会話をしていた。恐らく僕が食事に関してどこまで好き嫌いがあるのか分からなかったから様子を見ていんだと思う。彼は「ネパール料理店に行きたい」といった願望を少しも感じさせなかった。今になってから彼に質問してみると、やっぱり最初の頃は様子見をしていたらしい。

 

海外料理で最初に行ったのは天神にあるタイ料理店だった。

 

その店で、僕が出された料理を「美味しいですね」と言いながら平らげてしまうので、彼も安心したように思う。ついでに料理を半分にして分けて食べたのも、このタイ料理店が始めてだった。そこから彼も徐々に本領を発揮し始めて、ネパール人やフィリピン人やベトナム人といった外国人が経営している料理店を中心に巡り始めた。そのうち僕の家でも聞いたこともない香辛料を持って来ては料理を作ってくれるようになった。

 

彼といろいろな店を回るうちに、外国人労働者が増えているのが関係して、外国人が経営している料理店界隈が興味深い状態になっていることに気が付いた。その辺の細かい事情は彼の買っていた本を読んでもらえれば分かると思う。

 

春先に熊本旅行に行った時も、熊本市内の裏路地にあるタイ料理店に行ったけど、かなり古びたビルの中にあって日本人は滅多に来ることがなさそうな店構えだった。店の選択を間違えたかと心配したけど、出された料理が美味しくて驚いてしまった。

 

もし僕が「エスニック料理は嫌い」と言ったらどうなったのだろう?

 

そんなことを考えても仕方がないのだけれど、たった一つ好みが違っただけで、彼の趣味は僕の前では禁止されてしまうのだから、人間関係って難しいと改めて感じてしまう。

 

僕らは高田馬場駅の高架線沿いにある駐輪場にレンタサイクルを返却した。それから電車に乗って蔵前駅まで戻ることにした。ただ、しょうもない雑談に夢中になって降りるのを忘れて池袋駅まで来てしまった。それから丸の内線に乗って本郷3丁目で都営大江戸線に乗り換えて遠回りをしながらも蔵前に到着した。都営大江戸線のホームに降りてから地上に上がるまでに、いくつもの階段があって、彼が「都営大江戸線は苦手だ」と言っていた意味がようやく分かった。そういえば僕も東京に住んでいた時に通勤で都営大江戸線を使っていたけど、階段をやたらと多かったのを今更になって思い出した。

 

蔵前の宿についてから、すぐに風呂に入って就寝……

 

する訳もなく、まぁいろいろやることはやった。その後、それぞれのベッドに戻ってから眠りについた。男2人で宿泊するのにベッドが1つなんて部屋を予約するわけにもいかず、彼はちゃんとベッドが別々になっているタイプの部屋を予約してくれていた。

 

 

「なぜかしらねどーここは埼玉ー♪ ぜんぶー埼玉―♪」

 

青空の下で自転車を押しながら彼が口ずさんでいた。最近、彼と一緒に見た映画の中で流れていた『なぜか埼玉』という古い歌だ。東京と違って駅周辺だというのにビルもなく空が広がっていた。

 

旅行2日目。僕らは埼玉県に来ていた。

 

<つづく>