ゲイとして生きる君へ

中学時代に同性愛に目覚めカミングアウトしてました。現在は隠れゲイ@福岡。過去の思い出や現在のことを綴っていきます。

職場でゲイとして生きること<16>

 ふと考えてみると、同僚からの呼び名が「両刀使い」からいつの間にか「ホモ」に逆戻りしていた。でもそれは置いといて、その会社の担当者も人をホモ呼ばわりするなよ! ちゃんと人の名前を覚えろよ! ボクの会社の上司にホモの話とかするなよと内心で頭を抱えていた。

「それで今度からA会社の保守はお前に任せるからね」

 上司は嬉しそうにそう言って、新しい仕事をボクに押し付けてきた。

「あの……ホモ扱いとか困るんですけど。その会社に顔も出したくないんですけど」 
「何言ってんの! 相手に顔を覚えてもらって気に入ってもらえればいいんだって」
「う〜ん。そうなんですかね……」
「そうそう気にするなって!」

 あの会社は大丈夫なんだろうか……それに面談中にこんな会話をするボクの会社は大丈夫なんだろうか……ボクは上司から話を聴きながら色々と心配になってきた。この会話があってからというもの、上司の中では客先の受けがいいホモキャラクターという印象が定着してしまって、やたらと客先に出されることが多くなってきた。

「こいつホモなんですよ!」
「違いますって! ホモじゃないですって!」

 客先に行って少し雰囲気が和んでくると、一緒に行っている先輩が、いきなりボクをこう言って紹介するのだ。ボクは紹介されながら、赤面して慌てて否定するのだけれど、どうやらその姿が見ている方は面白いようだ。それとホモと紹介されるインパクトが強いようで、やたらと客先に顔を覚えられるようだ。

「神原さんってホモなんですよね? 近いうちに一緒にゲイバーに行きませんか?」
「やっぱりホモだから新宿二丁目とか行かれるんですか? 今度案内してもらえませんか?」

 そのうち客先で仕事をしていると慣れてきた人から妙な誘いを受けるようになったきた。ボクはホモ疑惑を否定しつつも丁重にお断りしていた。社会人生活は楽しかったけれど、ボクの社会人生活は入社一年目にして徐々に迷走入りしていた。

<つづく>

職場でゲイとして生きること<15>

 システムエンジニアになろうと思ったきっかけは不純だったけど、仕事をしていて人間関係を築くのが面白くてしょうがなかった。

「神原ってホモだからね」
「違いますよ! 女しか興味がないですよ」

 ボクは毎日のように、会社で不毛な戦いを続けていた。でも職場の同僚と一緒に仕事をしたり話したりするのが楽しくてしょうがなかった。

 そんなある日、先輩社員とA会社という客先に出かける機会があった。ボクの会社で開発しているソフトも既に導入されている会社で、新規機能の説明と、客先の担当者にボクの紹介も兼ねての訪問だった。先輩社員は客先の担当者と親しく談話をしていて、ボクは黙って二人の会話を聞いていた。どうせ初めての訪問だし、黙って笑顔で二人の話を聞いていればいいよね……そう思って気楽に構えていた。

「あっ……そうだ。うちの会社に入社してきた神原です」

 ボクの紹介を忘れてしまったかと思っていると、急に挨拶をするように促された。

「神原と申します」
「◯◯です。宜しくお願いします」

 ボクは緊張しながら名刺を交換していた。すると先輩社員が唐突に恐ろしいことを言い出した。

「ちなみにこいつホモなんですよ!」
「?!△?!◯>!!(言葉にならない状態)」

 この先輩……突然に何を言い出したんだ。ボクは驚いて先輩の顔を見た。先輩はわざと真剣そうに客先の担当者に説明していた。

「ホモなんで狙われないように気おつけてくださいね」
「へぇ〜〜それはそれは気おつけないといけませんね」

 客先の担当者も慌てるボクを見て面白かったのか、先輩と同じような目をして「弄りがいのある獲物を見つけた」という感じで笑っていた。とんでもない紹介をされたものだ。笑ってはいるけど紹介された担当者も、きっとドン引きしているに違いないと思っていた。名刺の裏側に色々とメモをする人がいるけど、まさか「ホモ」とか書かれていないだろうなと心配していた。

 そして数ヶ月後、ホモ疑惑を生み出した上司と面談をしている時だった。

「少し前にA会社に行ったろ? あの会社の担当者がお前に会いたがってたぞ!」

 上司が嬉しそうに言ってきた。

「えっ……特に何もせずに座ってただけですけど?」
「電話で話したけど、『もうホモの方って来ないんですか?』って言ったよ」
「?!△?!◯>!!」

<つづく>

職場でゲイとして生きること<14>

 翌日、どこで同僚から見られているか分からなかったので、なるべく手を振らないで出勤した。

「いや〜昨日は衝撃的だったな。まさか神原が両刀使いだったとは思わなかった」

 業務開始の前に、疑惑の原因を作った上司が席に着いて言った。ボクを弄るのが楽しくてしょうがないという風にニヤニヤと笑っていた。これは……飲み会だけで終わる雰囲気ではないなとボクは覚悟を決めた。

「神原って●●(男性の同僚名)のことどう思う?」

 急に隣に座っている先輩が訊いてきた。

「どうって……何をですか?」
「カッコいいとか思わないの?」
「全く思わないですよ!」
「じゃあ……●●(別の男性の同僚)のことは?」
「いや〜全く思わないですね。だから野郎には興味がないですって!」

 反応が止まって暗くなってはいけない。常に笑顔で軽く冗談を受け流しているという体を取らないといけない。

「神原さんって……両刀使いだったんですか?」

 ボクらの不思議そうに話を聞いていた、同じプロジェクトの派遣社員が会話に入ってきた。

「いえ……違いますよ」

 ボクは慌てて否定した。

「そうなんだよ。神原って彼女もいて男とも女ともヤリまくりだから。真面目そうに見えて性別関係なく無差別にヤリまくりらしいよ」

 ボクの否定は虚しくかき消された。あっという間に飲み会に参加していなかった派遣社員にまで変な話が広まってしまった。気がつくと仕事中でも同僚から両刀使い扱いされていた。ただ嫌がらせで言っているのではなくて、ボクを冗談を言って弄って楽しんでいるのは、同僚の顔を見ていても分かっていた。これまでのボクの書いた文章を読んでいただいた方には理解してもらえると思うけど、ボクは趣味の面も変わっていて、もともと同僚から変人扱いされていて弄られていたのだ。

 ただボクは職場の仲間が好きだった。弄られていても、それでも相手を弄って仕返しして楽しんでいた。仕事も好きだったし職場に行くのが毎日楽しみでしょうがなかった。逆に休みの日の方が何もすることがなくて暇でしょうがないぐらいだった。これは転職した今でも同じ状況だ。

 システムエンジニアになろうと思った理由を冒頭にも書いたけれど、もう一つ理由がある。それは独身でいても不思議に思われない職業を考えた時に、真っ先に思い浮かんだのがシステムエンジニアだったからだ。根暗なパソコンオタクで、他人と会話しなくてもパソコンと会話していれば、あの人は独身でいてもしょうがないよねというイメージがつくだろうと予想していた。失礼ながら、学生時代のボクは、物凄く偏見に満ちたシステムエンジニア像を勝手に描いていた。

<つづく>

職場でゲイとして生きること<13>

 飲み会の帰り道、ボクは同僚と別れて一人になってから通りの店の窓ガラスに映る自分の歩く姿を見ながら歩いていた。

 そんなにボクの歩く姿ってホモぽいかな? 少し手の振り方が大きいのかな? それとも少し手を横に振ってる感じがするのかな?

 あれこれ考えながら、自分の歩く姿を注意深く観察していた。

 よくあるホモぽい仕草だと手を横に振りながら歩いている姿がイメージされるけど、自分が同じような歩き方をしてかと思うと嫌でも直したかった。ボクはゲイではあるけど、よくゲイの人にいるような女性的な話し方や仕草をする人が苦手だった。つまり「おねえ系」の人が苦手だった。自分が苦手なタイプと同じような仕草をしていると思うと嫌でも直したかった。

 家に帰ってからも姿見の前で何度か手を振って歩いて見た。一人で鏡の前で手を振って歩いている姿は滑稽だったけど、恥ずかしがってはいられない。自分では理由はわからなかったけど、ホモぽいと指摘されたことは事実だった。手の振り方を指摘されたので、明日からは手をなるべく振らないようにして歩こうと決めた。

 それにしても今後、同僚からのホモ疑惑の攻撃を予想すると頭が痛くなる思いでいっぱいだった。気がつくと社会人時代になってから、人間関係が濃密になってしまった。大学時代はゼミやサークルやバイト先など、いろいろな人間関係のグループがあって好きなタイミングで自分から接すればよかったけど、社会人になると週休二日以外は、嫌でも毎日顔を合わせて仕事をしなくてはならなかった。一緒にいる時間が長くなれば、ボクがゲイだと隠していても、ふとした仕草や言葉からも、ゲイいう疑惑が生じやすくなるわけで細心の注意を払って行動をしないといけないと思った。

 とにかくどんなに問い詰められても、ゲイだということは認めないし、彼女がいるノンケという嘘をつき続けることを決めていた。明日からの攻撃に備えて、ボクは頭の中で様々なシーンを想定しながら眠りについた。

<つづく>

職場でゲイとして生きること<12>

 こういった時、弄られキャラというのは大変だ。弄られキャラは、どこの会社や部署に最低でも一人はいると思う。まさにボクがその一人だった。同じ同期でも村上君は性格が神経質でキツイから誰も弄ろうとはしない。恐らく弄って遊ぼうものなら、上司であろうと本気で激怒されて謝罪せざるをえないだろう。「同期の村上とデキてるんじゃない?」とか言いつつも、きちんと村上君には聞こえない声量でヒソヒソと話していた。ボクは遠くの方でマイペースに飲んでいる村上君を羨ましく見た。

 それにしても嘘を隠すために嘘を重ねるというのは、こういうことを言うのだろう。ただでさえゲイであることを隠して嘘をついているのに、成り行きとはいえ彼女までいると嘘をついたのだ。今更になって引き返すことなんかできなかった。

「大学時代にどうやって出会ったの?」

「一緒のサークルだったんですよ」

 ボクは大学時代に身近にいた女性を何人か思い浮かべて、特定の誰かを想定して話ことに決めた。特定の誰かにするのなら、大学時代に一番仲が良かった片原さんに決まっている。彼女とは社会人になってもメールのやり取りを続けていたし、趣味から考え方から癖から大体のことを熟知していた。

 ごめんね……勝手に付き合ってることにしてしまって。

 本人が目の前にいないから、迷惑をかけるわけではないけど、それでも後ろめたかった。

「じゃあ……彼女と結婚とかしないの?」

「お互いに仕事をしてるんで、まだ考えてないです」

「じゃあ……彼女とセックスとかしないの?」

「はぁ?? まぁ……セックスしますよ」

「彼女って何の仕事してるの?」

「●●って会社で働いてるんですよ」

 特定の女性を想定してからは、よどみなく受け答えができるようになった。その場の雰囲気からボクのホモ疑惑が徐々に薄れていくかのように思えた。これなら乗り切れるかもしれない。そう思った時に、ニヤつきながらホモ疑惑を生み出す原因を作った上司が言った。

「そうか……ごめん……俺が間違ってた。神原って両刀使いだったのか……悪いことを言ってしまった」

 この上司……一発どついたろうか?

 ボクをホモと疑っている上司はなおもしつこかった。あくまでボクが男が好きであるという疑惑を捨ててくれなかった。まぁ……ボクは本当にゲイで、それだけ上司が鋭い洞察力を持っているということだけど、ボクにとっては迷惑千万だった。

<つづく>

職場でゲイとして生きること<11>

「神原って歩く時の手の振り方とかなんとなくホモぽいって」

 酔っ払っているためか前回と違ってしつこかった。ボクは自分の歩いている姿を頭の中に思い浮かべたけど、いまいち分からかった。

「えぇ……本当ですか?」

 ボクは笑いながらごまかしまぎれにジョッキを持ってビールを流し込んだ。

「そうやってジョッキを持つ時の仕草もホモぽい」

 それは完全な言い掛かりだった。でもボクが弄られるのを見ていて他のメンバーも楽しくなってきたようだった。

「言われてみれば神原ってホモぽいよね」

「同期の村上とデキてるんじゃない?」

「お前ら同期同士で肉体関係持ってるだろ?」

「お前ら二人ともキャバクラに行かないのはデキてるからか?」

 まさかこんな展開になるなんて。とにかく黙っていてはいけない。  

「いや……ホモって存在は否定しないけど、面と向かって言い寄られたら困るぐらいの存在ですよ」

 この言葉はボクがノンケの振りをするのに、よく使う常套文句だった。

「じぁ……お前って彼女いるの?」

 どうしよう……そもそも女性に興味を持ってないからいるわけがない。でも何かを言わなくちゃいけなかった。

「彼女……いますよ」

 完全に嘘だった。ボクは追い詰められ気味だったので窮余の策としてそう言った。ボクの言葉を聞いて話を聞いていた他のメンバーも興奮していた。

「どうやって出会ったの?」

「付き合ってどれくらい?」

「何歳ぐらい?」

 みんなが興味津々な感じで次々に質問してきた。

「そんなことどうでもいいでしょ!」

 ボクは笑いながら黙秘権を貫こうとした。

「怪しいな……」

「彼女いないだろ?」

「いるのは彼女じゃなくて彼氏だろ?」

 上司だけでなく、他のメンバーも疑惑の目を向け始めた。まずい……嘘がバレる。そう思ったボクは 黙秘権を早々に捨てることにした。

「大学時代に出会った人ですよ!」

 また嘘をついてしまった。三十歳を過ぎた頃に気がついたのだけれど、そもそもボクは性格的におっとりしていて、弄られキャラになりやすい性格のようだった。

<つづく>

職場でゲイとして生きること<10>

 その日は、それきりボクの話題には触れることなく終わった。そして数ヶ月の時間が流れて、特に同じ話題にならなかったので、ボクの中で上司の言葉も徐々に薄れていった。

 そんなある日、あるプロジェクトが終わって打ち上げの飲み会をするため、会社近くの飲み屋に十人近くのメンバーが集まって飲んでいる時だった。全員がいい感じで酔いが回っていた。ボクは近くに座ったメンバーと当たり障りのない会話をしていると、例の上司がボクの隣に腰を下ろして座った。そしてボクに向かって言った。

「神原〜〜お前に訊きたいことがあるんだけどさ〜〜」

 よく上司の顔を見ると完全に酔っ払っていた。

「はいはい……訊きたいことって何ですか?」

「神原ってさ……絶対にホモだろ!」

 おっと……忘れていたけど、この場で蒸し返されるなんて思いもしなかった。理由はわからないけど言葉が「おかま」から「ホモ」に変わっていた。ボクは暗い表情をしていては絶対に駄目だと思った。ここで暗い表情をしたらゲイだということを認めてしまうことになる。ボクは明るい表情を作って質問した。

「例えばどんなところがホモぽい感じがするんですか?」

「はじめて神原をホモぽいと思ったのは、会社のビルの中から、通勤する神原の姿を見た時だったかな」

「通勤する姿ですか?」

「そうそう。なんか歩き方とか手の振り方とかが、なんとなく普通と違う感じがしてて気になったんだ。何かに似てると思って観察してたら、ホモぽい感じがしてることに気がついたんだ」

 よくもまぁ……気がついたものだ。彼の観察力の高さに唖然とした。歩き方を指摘されたことは初めてだった。そしてその指摘は正しかった。

「へぇ……そうですかね?」

 その上司の発言を聞いて、同席していた他の同僚もボクの歩いている姿を思い浮かべたようだが、そうは思わなかったようだ。

「うわ〜そんなこと初めて言われましたよ」

 ボクはずっと明るい調子を装っていた。とにかく黙っていては駄目だと思っていた。ニコニコと笑っていて、「心外だな」というような表情を作ってた。ここで認めてしまえば、高校時代に逆戻りしてしまう勝負所だった。

<つづく>