「神原くん。一緒の布団で寝ようか?」
ボクは体操服姿の同級生から、いきなり声をかけらて慌てふためいた。そう言って進み出てきた生徒の後ろではクラスメイトたちがニヤニヤと笑っていた。
◇
さっきまで社会人時代を書いていたのに、いきなりぶっ飛んで高校時代に話が戻る。
相変わらず時間軸がぶっ飛んでいて、あっちの時間に飛んだり、こっちの時間に飛んだりと騒がしい文章だけど、こんな文章を書いている張本人としては、あくまでボクの人生体験を元に書いてるので内容としては続きのようなものだと思っている。
高校生になって初日を迎えて、
中学時代はカミングアウトして大変な目にあってきたけど、心機一転して「平凡」に過ごそう。
という決意は虚しかった。
そもそも「ホモ」という十字架を背負ったボクにとっては「心機一転」という言葉はないにも等しかった。
高校入学の一日目にして
「神原はホモらしい」
という噂が、他の中学校の出身者にもあっという間に伝わっていた。自分の教室に入って席に座っていると、離れた席からジロジロ見られているのを感じた。
一人の生徒が恐る恐る近づいてきて、
「神原くんって本当にホモなの?」
と尋ねてくる。
「そうですよ」
と答えると、逃げるように仲間の元に走り去って「やっぱりホモらしい」と聞こえるように言ってくる。こういった問答は中学時代から飽きるほど繰り返していたから慣れていた。こんなことになるのも当然と言えば当然だった。普通の中学校には「同性が好き」なんて公言している生徒はいないはずで、同じ高校に「同性が好き」なんて公言している生徒がいれば珍しくもなるだろう。
何千回。いや何万回、同じ問答を繰り返しただろう。
「神原くんって本当にホモなの?」
「そうだよ」
そんなことは一度確認すれば終わりなはずなのに。同じ生徒から何度も同じ質問を浴びせられた。
そんなうんざりするような毎日を繰り返して高校生になり「2ヶ月目」を迎えた。どこまで知れ渡っているのか知らないけど全国各地にある青少年を育成するために建設された施設がある。なにやら健全な青少年を育成するための施設らしい。
ボクの学校では同じ学年の生徒の親睦を深めるという名目なのかはっきりとした理由は知らないけど、入学して2ヶ月後に、その施設で合宿を行うという恒例行事があった。
高校入学2ヶ月も経てば学年で、ボクが「ホモ」だという事実を知らない生徒はいない状態になっていた。高校には同じ中学校の出身は何人かいたけど、同じクラスになった人は少なくて、しかも中学時代には大して会話をしたことのないメンツばかりだった。
合宿初日。夜になって寝る準備をする段階になると、
「神原の隣で誰が寝るの?」
という言葉が飛び交い始めた。
ボクは無視して空いている隅のスペースに布団を敷いた。「あいつに襲われたらどうしよう?」とか「キスされたらどうしよう?」と言った言葉が飛び交っていた。
襲うはずがないのに馬鹿な奴らだな。
そんなことを思いながら歯磨きをしに部屋を出た。そしてしばらくして部屋に戻ってくると、さっきまでと様子が変わっていた。少し遠巻きにニヤニヤしながらクラスメイトたちが見ている。
一人の背の高い生徒がボクの前に進み出て来た。
「神原くん。一緒の布団で寝ようか?」
「はぁ?」
ボクは突然に申し出に反応できなかった。ただ彼の後ろでニヤニヤと笑っている同級生たちに気がついて、なんだか様子がおかしいと感じた。
<つづく>