おのぼり二人紀行<32>

僕は自分の職場にシステムの導入を進める仕事をしている。

 

システムを開発することもあったけれど、最近は自分で一から開発をしている余裕はなく、どちらかというとシステムベンダーが開発している製品を購入して、自分の職場の運用に合わせて導入を進めていくような立場だ。いろいろなシステムベンダーの営業に来ては製品を見る機会も多く、システムの展示会のようなイベントに行く機会もよくある。最近では、AIやRPA関連のシステムも見かけるようになった。既に「これは使えそうだな」と思う製品も見かけるようになっている。現時点では、組織の予算の都合があり、そもそも現場のシステムに対する理解や要望がそこまで進んでいないから導入はしないけど、恐らく遠くない未来に導入は進んでいくだろうと予感している。

 

例えば、ある部署にシステムを導入したとする。

 

その部署に所属している人たちは「便利になるから」と言って協力してくれる人もいる。もしくは組織の上層部からの指示で仕方なくやっている人もいる。そうやって協力してシステムを導入してシステムを稼働した結果、その部署から最初に減らされているのは派遣社員だったりパートだったりする。そして場合によっては正社員を別の部署に異動させたりもして、部署の人数は減らされていく。

 

組織の経営者層と話していても、そのシステムを導入することで業務が効率化されることも考えているけれど、効率化された結果、どれくらい人数が減らせるのかを常に考えている。大きな組織であればあるほど似たような状況だと感じている。システム導入費だけでなく、導入した後の保守費もかかるので、それに見合う分の人件費を削減したいという気持ちは理解できる。ただ「効率化」という言葉の下に「人」が「システム」に入れ替わっていくのを感じられて複雑な気持ちになる。

 

はっきり言えば、僕の立場は、他の社員にとっては「首切り」をしているようなものかもしれないと思う時もある。

 

僕は銀行業界に属してはいないけど、子供の頃、親に連れられて銀行に行った時、窓口や奥の方に多くの社員の姿があった。それから大学生になって口座を作るために銀行に行った時、子供の頃に見た時よりもずっと人数が減っていた。数年前、転職してから給与振り込みで使う口座を開設するために、久しぶりに銀行の窓口に行った時、大学時代よりもずっと人数が減っていた。ただ、本を読んでいると、それでも日本の銀行は、海外の銀行の店舗に比べればずっと人数が多いらしい。海外では人がおらず、タブレットが置いてあってモニター越しに遠隔で操作を説明するだけの店舗もあるようだ。窓口業務に限った話ではないけど、ニュースでも流れている通り、銀行業界は一気に人員削減が進んでいくと思う。これは別に銀行業界に限らない話で全体的に人は削り取られていくだろう。

 

システム導入を進めていけば僕の仕事は必要性が増してくる。

 

恐らく僕が仕事をしている業界は、これから20年ぐらいは大丈夫だと思う。それに僕の職種自体の必要性は増してくるだろう。ただ、そうは言っても僕自身も時期によるけど週二休ではなく、週三休でも四休でも十分に仕事が回るのではないか?と感じる時もある。さらに自分の職場を見渡していても、本当はもっと人が少なくて済むだろうとよく感じることがある。

 

ただ「このままでいいのだろうか?」と考えていた。

 

僕は「ゲイの側面に関しては、どう生きていけばいいのだろうか?」と疑問とは別に、そういった疑問も漠然と感じていた。当時の僕にとって「仕事」は大切な部分を占めていた。仕事をしている間は、余計なことを考えなくて済むからだ。

 

そんな時期に彼と出会った。

 

僕としては今の仕事を辞めて農業を専業でやるつもりはない

 

彼と一緒に市役所の新規就農窓口に行って農地に関する相談をしたりした。実家がもともと農家ではない人が、新規で農業を始めることのハードルの高さは感じている。それに、そもそも組織や制度を含めて構造上に問題があるように感じているけど、それは話が逸れるので、ここでは書かない。ただ、どちらにせよ大規模な農業もITを使った効率化の波は避けられないように思う。

 

僕がやりたいと思っているのは、あくまで家庭菜園レベルの農業だ。

 

<つづく>