絶対に会えてよかった<101>

彼は「なんで起こしてくれなかったの?」と文句を言って来たので、「何度も起こしたけど、起きてもすぐに寝ちゃたんですよ」と説明をした。それから他の部屋から「うるさい」とクレームが来ていたことや、「うるさくて眠れない」と言っていた人がいたことを説明すると、彼は恥ずかしさと後悔に苛まれていた。僕はそんな彼を見て、あれだけ物音を立てないように周囲に気づかれないように慎重に店に入ってきているのに、拡声機のような、大きないびきをかいていた姿を思い出して笑ってしまった。今となっては、こんな馬鹿馬鹿しく何気ない会話の方が、肉体的な関係を交わしたことよりも楽しい思い出になっている。

 

ただ、この時期から、僕の中で「そろそろ有料ハッテン場に来るのは止めよう」と思うようになっていた。もっと別なことに時間を使いたいと思うようになっていて、その思いは日が経つにつれて徐々に強くなっていっていた。

 

そんなことを思うようになったのは「このサイトに文章を書き始めた」からだ。

 

多くのゲイたちが、こういった有料ハッテン場やゲイアプリやSNSを使って出会いを求めている。でも毎日文章を書き始めてから、そういった出会い方以外にも、「もっと別の出会い方があってもいいんじゃないだろうか?」と疑問に感じるようになっていた。むしろ毎日文章を書いて自分がどんな人間なのか知ってもらって誰かと会う方が、僕が望んでいるような人と出会うことはできるんじゃないだろうかと思うようになっていた。

 

この問いは僕の中で日が経つにつれて徐々に大きくなっていった。

 

このサイトに文章を書き始めて半年くらいまで、正確な日付は覚えていないけど、ちょうど『住吉奇譚集』を書いたぐらいまで、僕は有料ハッテン場に行っていた。ただ、次に年上の彼と会った時から、そういった場所に行くことは無くなってしまった。そのことを決めた思いは、このサイト上でも文章に書いていた。

 

彼と最後に会った夜。

 

僕は彼を気持ちよくしてあげた。それから彼も僕に対して同様のことをしようとしてきたけど断った。その時には「もう今日で有料ハッテン場に来るのは最後になるだろう」と確信した。彼に「またね」と言いながらも、僕の中ではもう二度と会うことはないだろうと確信していた。ロッカールームで服を着てから店を出るときも不思議と後悔はなかった。ただ、「今まで出会った人たちのことを文章に書いて残しておきたい」という使命感に似た気持ちの方が強かった。

 

いつか彼のことも文章に書こうと思った。

 

このサイトのことを既婚の彼に教えてあげてようかとも思ったけど、いつか彼がたどり着いて偶然に読んでくれたらいいと思った。僕と過去にどこかで会ったことのある人が、もしかしたら文章を読んでくれるかもしれない。直接出会うという縁はもうないけど、彼らと文章を通して再会したいと思った。

 

最後に有料ハッテン場を後にした夜から約1年近くの時が流れた。

 

<つづく>