まさか高校時代の同級生が同じ大学に通っているなんて思いもしなかった。ボクは思ったことを素直に口にした。
「なんでヒロト君がここにいるの?」
「えっ・・・同じ大学だからだよ」
戸惑っているボクを見てヒロト君は何か思い当たったようだ。
「そういえば神原さんって、高校3年の1月からほとんど出席してなかったでしょ?もしかして俺が同じ大学に入ってたの知らなかったの?」
そうなのだ。ボクは大学受験前から、そして大学に合格してからも全くといっていいほど高校には顔を出さずにいた。そのまま卒業式を迎えてしまい同級生がどこの大学に行ったのかは、ほとんど把握していなかった。ボクは反省しながら答えた。
「恥ずかしいことに知りませんでした。でもなんで今まで会わなかったんだろう?いくら何でも同じ大学にいたのに会わないなんておかしい気がする」
ヒロト君は少しも不思議ではないという風に言った。
「あぁ・・・それは学部が違って、キャンパスも別々だったからね」
「なるほど」と納得した。ボクの大学は学部ごとに複数のキャンパスに分かれていて、ボクとヒロト君はそれぞれ別のキャンパスだった。ボクはヒロト君のキャンパスに用事がなかったので、サークル活動で2回くらい訪れたことがある程度だった。ヒロト君は嬉しそうに話してきた。
「こっちのキャンパスに来るたびに、いつか神原さんと会うのかなって思ってたけどようやく会えたね」
「そうかヒロト君はボクが同じ大学にいることを知ってたのか」と思った。よくよく考えてみたら、高校の職員室の前に大学の合格者が掲示されていたはずだ。ボクは卒業式の日にしか学校に行かなくて見てないけれど、過去数年間にどの先輩がどの大学に合格したと貼り出されていたことを思い出した。ボクは大学生になって同じ同性愛者だったヒロト君のことを思い出すことが多くなっていたので突然の出会いに嬉しくなっていたが、急に不安に襲われて質問した。
「もしかして・・・まだ同じ高校の同級生っているの?」
ヒロト君は首を振っていた。
「いや俺らの学年では神原さんと俺だけだよ。浪人して今年になって入学して来る人はいたかもしれないけどね」
ヒロト君の話を聞いて、大学時代から同性愛者であることを隠して生きてきたボクは心底ホッとしていた。
<つづく>