「そろそろイキますか?」
ボクは気軽な感じで訊いた。ずっと抱き合ったまま雑談していたので、なんだか彼とは昔からの知り合いのような気分になっていた。
「うん。イきたいけど、このままずっと朝まで抱き合っていたい気もする」
彼の言葉を聞いて、ボクは「可愛いな」と思って笑った。
「君もイきたいよね?」
「いえ……ボクはいいです」
普段から規則正しい生活を送っているせいか、深夜まで起きているのはキツくて、ボクにはもう体力が無くなっていた。
「じゃ……イかしてもらおうかな?」
それから二十分近く彼の身体を責めて、ようやくイかすことができた。そしてテッシュでの汚れた彼の身体を拭いてあげた。
「ありがとう……そういえば君ってゲイ向けの出会い系のアプリとかしてないの?」
「昔やったことはありますけど、今はやってないですね。何だか時間が勿体無いような気がしたんですよ」
「そうか……」
「携帯のメールアドレスとか教えてもらえる? 会えなくても雑談したいんだけど?」
ボクは微妙な態度を取ったので、彼はそれ以上は訊いてこなかった。もう今までの経験から、メル友といった関係が長続きしないのを知っていた。恐らく彼も同じような経験は何度もしているはずだと思った。
「今、何時くらいだろう?」
彼が時間を調べようと、時計を探していたので、ボクはベットの枕元に置いていたスマホの画面を確認して答えた。
「もう三時になりますね」
「そろそろ帰ろうかな……」
彼の家は、この店から歩いて帰れる距離にあると聞いていた。
「本当にメールアドレスとか教えてくれない?」
ボクは再び困った感じの態度を取った。
「先にシャワー浴びていいですよ。ボクは三十分くらいしてから、下に降りて浴びますから」
ボクは返答する代わりに、シャワーを浴びに行くよう促した。ボクの言葉を聞いて諦めがついたようだった。
「今日はありがとうね。いつかまた会おうね」
「そうですね。また機会があったら会いましょうね」
最後に彼と固く抱き合って、彼はベッドから起き上がって、部屋から出て行った。
いつかまた会おうね。
もう何人と同じ言葉を交わして来ただろう。でもほとんどの人と二回目の関係を持つことはなかった。暗闇の中で会って、暗闇の中で別れる関係だ。相手の顔もはっきりとは分からないことが多かった。ボクは割と関係を持った人の顔や、話した内容を覚えているけど、全く相手のことを覚えない人も多い。
「どうも……前にもヤりましたよね?」
「そうだっけ? 覚えてないけど」
ボクからそう指摘しても、相手は関係を持ったことすら覚えていないのだ。メールアドレスを交換しようが、どうせ長続きしない関係だ。それは何度も経験して身に染みてわかっている。
ボクはベッドの上で起き上がって、彼がシャワーを浴びるのが終わるのをただ待っていた
<つづく>