LGBTシンポジウム参加レポ<13>

ーーーディスカッションの続き

●コーディネーター
Rainbow Soup(レインボースープ)代表 五十嵐ゆり

●パネリスト
渋谷区総務部男女平等・ダイバーシティ推進担当課長 永田 龍太郎
九州レインボープライド代表 三浦暢久(あなたの のぶゑ)
福岡県弁護士会 LGBT小委員会 LGBT小委員長 石田光史
株式会社 三好不動産 社長室 執行役員 松本茂規

→五十嵐氏

 渋谷区で取り組みを続けていく上で、何か難しかったことはありますか?

→永田氏

 先ほど少しトイレの話をしましたが、渋谷区は恐らく日本で初めて、トイレのサインを「だれでもトイレ」というジェンダーニュートラルな表示にしました。それに関して、当事者や非当事者からいろいろな声をいただきました。言ってみれば炎上しました。

 トイレのサインから学んだのですが、ダイバーシティとインクルージョンのバランスを、どういう風に取って進めていくべきなのかが難しいと感じました。インクルージョンとは言っても、「どうインクルージョンを作っていけばいいんだろうか?」という難しさを、まさに今も痛感しているところです。

 また、LGBTというのは新しい課題としてスポットライトを浴びているので、「これまでの男女共同参画とは別物ではないか?」と感じている方が、ご年配の方にいらっしゃいます。でも根っこは全て「性差別」と「偏見」です。これまで男女共同参画に携わって来た人たちと、うまく手を取り合って「一緒に前に進んでいきませんか?」という空気をどうやって作っていくかが、課題だと思っております。

 男女共同参画や雇用機会均等法が始まって30年弱が経っています。携わってらっしゃる方々も高齢化して、若い世代の方々とギャップもあります。性差別全般というところで、できるだけ多くの関わられている人たちを巻き込んで、一緒に取り組みたいと考えております。

→五十嵐氏

 このテーマは、ある調査でも世代間で認識の差が大きいというデータ結果もあります。ただ若い方は、非常に寛容的な方が多いです。石田さんの話の中でも、若い弁護士は学生の頃から知っていると話がありました。ただ知らないことを批判する訳ではないことを合わせてお伝えしておきたいと思います。

 石田さんにも何か難しく感じたことを聞いていきたいと思います。

→石田氏

 弁護士の中にも、この問題に対して自覚的に理解や認識をいただけていない部分が、残念ながら多々あると思います。弁護士会は、役員と従業員という関係ではありません。なかなか組織として全員に強制的に研修を受けさせるということが難しいです。先ほど説明したように、弁護士会内での研修はやっていますが、必ずしも全体には浸透していません。

 我々としては外に向かってシンポジウムを積極的にやっていきたいのですが、足元を振り返って見ると、「我が組織としてこれでいいのか?」と常に思うところです。三好不動産さんがセクハラ規定を変えられたとおっしゃっていましたが、そういったことを、こちらもやっていく必要があるだろうと思います。「啓発などの活動」と「規則などを変えていく活動」を、並行しながら図っていきたいと思っています。

→五十嵐氏

 初めて石田さんとお話ししたのは、先ほど話が出た、西日本新聞のコラムの集まりでした。石田さんは「LGBTって何?」といったハードルもなく、スムーズに話を聴いてくださり、最初から話が伝わりました。

 そもそも石田さんにとって、最初にLGBTを知るきっかけは何だったんですか?

→石田氏

 そこは認識の違いがありまして、そう感じていただけたのであれば有難いのですが、私としては目から鱗で世界が開けたような気がしておりました。

 私自身には当事者の知人がおらず、つい先日に同級生から当事者だったと打ち明けられたのですが、それもつい最近のことで昔は当事者であることを知りませんでした。

 ただ映画や小説や漫画が好きなので、そういった作品で中学生や高校生の頃から触れていました。そういった形で「世の中にはそういった方がいるんだ」と知っていました。ただ私にとって、テレビの中や漫画や映画の中にいる人という認識でした。そういった方がいるという知識はありましたが、生身で動いているのを見たことがありませんでした。

 そういった基礎的な知識があったので、五十嵐さんもスムーズに受け入れてくれたと感じられたのかもしれません。

 私が目から鱗が落ちたというのは、例えば五十嵐さんに「どんな問題があるのですか?」と質問した際、私の頭の中では「戸籍変更の問題があるんです」という話になるのかと思っていました。しかし「会社で秘密にしてたのがバレて居づらくなって辞めなくてはいけなくなった人がいるんです」とか、「パートナーと別れる時にもつれて脅されたりしてる人がいるんです」といった話を聞いて、それって我々弁護士が日常的に扱っている問題だと思いました。

 社会で生活してるんだから当たり前ですよね。ただ当たり前なんですが、そういったことが頭になかったことを私は恥ずかしく思いました。

 ふと振り返ってみれば、私の依頼者の中にも当事者の方がいたはずだと思いました。その時点で既に15年くらい弁護士をやっていたので、ゼロな訳がありません。性的マイノリティの相談として来た人ではなくても、「どこに住んでるんですか? 」「誰と住んでるんですか?」と訊いても、すごく拒否的だった依頼者の顔も思い浮かびます。もしかしたら関係ないのかもしれませんが、そういった問題だったのかもしれないとか思います。

 いかに自分が何も見ていなかったのかを知ることができました。まさに「いないのではなく、見えていないだけ」ということを地で行っておりました。ただ、逆にそういう話であれば、「弁護士の私でも問題を知ることさえできれば、やれることはあるんじゃないか?」と思いました。

→五十嵐氏

 ありがとうございます。松本さんにもお聞きしたいのですが、難しく感じたことはありましたでしょうか?

→松本氏

 不動産という商品は嗜好品ではなく、誰でもどこかに住まないといけません。そこで借りにくいという状況があることを知った時には、正直、「ショック」というよりも「なるほど」という思いが先でした。

 我々も「快適な住環境の提供」をテーマに仕事をしていますが、問題に気づいていませんでした。三浦さんから教えていただき、取り組みについてアドバイスをいただき進めていきましたが、そこで「社員全員が同じように理解する難しさ」を感じました。

 これは会社の経営方針やビジョンでも同じですが、トップが話したことを社員が果たして理解して動いているかと言うと難しいです。ただ、良かったのは当社は比較的に新しいものをやろうとする風土があります。外国人採用も同じでしたが、13年前から始めて今は中国、ベトナム、フランスで13人います。いつの間にか社内に外国人がいることが当たり前になっていきました。全員に浸透にしにくいという難しさがある反面、比較的にLGBTの取り組みについて社内での理解は早かったように思います。ただ、まだまだ課題は多いです。

ーーーここまでのボクの感想を書く

 弁護士の石田さんはボクの好みのタイプでした。いや……あれ?これって別の感想を書いてしまった。いや失礼しました。もう少しで長い議事録も終わりますので、お付き合いください。

<つづく>