小説家の仮想空間カムアウト<1>

 小説家の浅原ナオトさんがカムアウトした。

 浅原さんは、このサイトでも何度か取り上げている『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』の作者で、過去にレビュー記事を書いた。ほぼ同時期に勝間和代さんもカムアウトしているけど、でもボクの中では、浅原さんのカムアウトの方が興味深くて、彼のtwitterアカウントを興味深く観察している。

 この小説の存在を知ったのは、以下のサイトを見たからだった。

 リンクを貼っておいて何だけど、実を言いますと……上記のサイトに書かれている紹介文章を、まともに読まずに購入してまった。

 その理由は2つある。

 1つ目の理由は、当時は同性愛を扱った小説や映画で気になった作品があれば、片っ端から購入していて、ざっとリンク先の紹介文章を読んだだけで、同性愛を扱った小説であることが分かったからだ。

 でも、この小説に関しては購入した一番の理由は別にある。

 それはタイトルに『ホモ』という言葉が使われていたからだ。

 ボクは『ホモ』という言葉を一番身近に感じている。

 言葉の違和感のなさで比較すれば

 ホモ=同性愛者>ゲイ>>越えられない壁>>LGBT

 といった状態だ。

 このサイトの文章を書く上では、ボク個人の思いは別として『同性愛者』や『ゲイ』や『LGBT』という言葉を使っているけど、個人的には『ホモ』という言葉の方を、一番身近に感じている。

 中学時代。自分が同性を好きになる人間だと意識した時、真っ先に頭の中に浮かんだのは、『ボクはホモなんだ』という思いだった。これは昨年、久しぶりに登場して炎上してしまった『保毛尾田保毛男』の存在が影響している。

 それからテレビや新聞などのマスコミを通して『同性愛者』という言葉に出会った。

 おぉ……なんか真面目そうな雰囲気の言葉だな。

 新聞の文章や、ニュースのテロップで『同性愛者』という言葉に出会った時に、そういった印象を持った。

 この時に『ホモ』という言葉が、差別的な意味を持っているので使うべきでないということを知った。ただ初めの自己認識が『ボクはホモなんだ』から始まっているので、いきなり『ボクは同性愛者なんだ』という認識に変えることはできなかった。それに同級生から「おい!ホモ」や「おい!おかま」と呼ばれていたのも影響している。ちなみに『おかま』という言葉で呼ばれるのは、中学時代から嫌いだった。だから自分の中でも使うことはなかった。当時は『おかま』という言葉の意味も知らなかったけど、自分が『おかま』という言葉の定義する存在ではないと、はっきり認識したのは大学時代になってからだ。

 それで『ホモ』という言葉を使うのはあまりよくないと知ってから、『ボクはホモなんだ』という思いと『ボクは同性愛者なんだ』という思いを、時と場合によって使い分けることにした。

 それから次に、大学時代になってインターネットを使い始めてから『ゲイ』という言葉に出会った。

 当時、自分のことを『ホモ』もしくは『同性愛者』という風に認識していたので、今更になって『ボクはゲイなんだ』という言葉に置き換えるのには、これまた違和感があった。この違和感は未だに残っていて、『ゲイ』という言葉を使うのには少し違和感を感じている。

 もしかして……ボクの存在を定義する『ホモ』や『同性愛者』や『ゲイ』といった言葉って、時の流れによって変わっていくものなのかな?

 そう初めて認識した。それから、めんどくさいと思いつつも、時代の流れには逆らえずに『ボクはゲイなんだ』という思いを、時と場合によって使い分けることにした。それにインターネットを通して出会う人たちも、自分のことを『ゲイ』と呼ぶようになっていた。だから、ハッテン場などで会う人の前では、『同性愛者』や『ゲイ』という言葉を使って、密かに頭の中で、身近な『ホモ』という言葉に置き換えて認識していた。たまに『ホモ』と言っている人と出会うと親近感を覚えたくらいだった。

 それから次に、社会人になって『LGBT』という言葉に出会った。

 これは正確に覚えていないけど、3年くらい前のことだった。テレビの中でパレードをしている人たちの姿が映し出されていて、『LGBT』という言葉が使われていた。ただ自分がその『LGBT』という言葉に含まれる存在だと気が付いたのは、もっと後のことだった。当初はパレードをする人たちのことを『LGBT』と呼ぶのかと思っていた。

 もういいよ……うんざりだ。これ以上は自分を定義する言葉を増やすのは嫌だ。

 自分が『LGBT』の『G』に含まれると知った時、そう思った。これまでも『ボクはLGBTのGなんだ』と思ったことは一度もない。ただ便利な言葉なので、文章を書くのには使っているだけだ。
 
 話は冒頭に戻ってきて、

『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』

 という、本のタイトル。

 通常なら使ってはいけない言葉。でも密かに自分が一番身近だと感じている言葉。

 そんな経緯もあって、ボクは『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』というタイトルを見て、深く考えることなく惹かれうように本を買ってしまった。
 
<つづく>