深夜のカミングアウト<17>

既に時刻は日付を跨いでいた。

すぐ隣の部屋にいるんだから、顔を合わせて話せばいいものの、お互いに1メートルも離れていない場所で、ボクら携帯メールで会話を続けていた。

そういえば、今まできちんと言ったことがなかったけど秘密を打ち明けていい?
いいですけど。いきなり何ですか?

彼からのメールの返信を読んで、

僕は「男」が本当に好きなんですよね。

と入力して、メールの送信ボタンを押した。

なんで今更になってカミングアウトしたのかは分からない。でもカミングアウトすることに特に抵抗もなかった。ただ彼なら受け入れてくれるという確信があった。

今まで彼に「好きだ」と言い続けてきて、「好きだ」とメールも送り続けてきたけど、きちんと「男」が好きだと説明したことはなかった。

高校を卒業して以来、誰にも言わずにずっと隠してきた気持ちを、ようやく打ち明けることができた。

隣室からメールの着信音が鳴った。

数秒後、隣室から笑い声がした。そして一分もしないうちにメールの返信が着た。

とっくに知ってます。本当に今更ですよ。気がつかない方がおかしいです。

彼からの返信メールを読んで、ボクも思わず声を出して笑ってしまった。「やっぱり気がついてたのか。そりゃあれだけ毎日告白していれば気がつくよね」と思いつつ、メールの返信を送った。

いつ頃から気がついてたの?

と質問した。隣室からメールの着信音が鳴って、すぐに返信が来た。

よく覚えていないけど、数年前から気がついてた。他の同期は気がついてないよ。神原さんがいない時に「怪しい」とか会話してたけど確証はないと思うよ。他に社内で知っている人はいるの?

と返信が着た。

村上君だけにしか話してないよ。このことは両親もはっきりと気がついてなくて、死ぬまで黙っていようと思ってます。母親は気がついてる可能性があるけど、はっきりと言われたことはないよ。

そうメールを送った。数分間、彼から返信が途絶えた。ただ彼が起きている気配が隣室からした。

そうなんだ。でも皆そんなものなのかもしれないよ。

「そんなもの」って何のことなんだろうと疑問に思いつつメールのやり取りを続けた。

でも毎日告白してくるバカは珍しいでしょう?
そこは否定しないけどね。でも、みんな多かれ少なかれ他人には言えない秘密を持っていると思うよ。
そうかもしれないね。

それから、またしばらく彼からの返信が途絶えた。隣の部屋からは、彼が起きている気配はしていて、ボクはメールの返信を待ち続けた。

<つづく>