絶対に会えてよかった<28>
翌日、教室では「神原は『ジャン』でヌいた」と噂になっているのかと思ったけど、この件に関しては思ったほど冷やかしはなかった。何人かのクラスメイトから冷やかされたくらいで、その後は噂にもならずに消滅した。
恐らくみんな本気でヒイてたんだと思う。それか本当だと信じてもらえなかったのかしれない。
こんな暴露話を書いちゃうから、このブログを通して実際に誰かと会う時に恥ずかしくて堪らなくなるのだ。そう言えば明日も誰かと会う予定があるけれど、もし土壇場になってキャンセルされたらどうしようかと思う。でもどうせ隠していてもいいことはないので、ありのままボクの姿をさらしてしまうのだ。
◇
そうだ。話を元に戻さないといけない。
なんの話を書いていたのか文章を書いている本人が忘れてしまった。いざとなれば『ファイブスター物語』のように途中から設定を変えてしまえばいい。いやいや。こんなことを書き始めたら、また話が逸れてしまう。
そうだった……S君に襲われている話を書いてたんだった。
そんなこんなで平凡な高校生活とは、程遠い生活を送ることになったのは、何を隠そう自分からカミングアウトしまくっていたという、まさに自業自得。因果応報。身から出たさびという状態だった。
ボクは休み時間になると襲ってくるS君の抱きつき攻撃をかわしながら高校生活を過ごしていた。
ウザい。こいつらウザい。
好きでもない同性から言い寄られるのは本当に対応に困ってしまうものだった。この「同性から言い寄られて困ってしまう」という感情は、近い将来のボクにブーメランのように返ってくるのだけれど、そんなことは露知らずという感じだった。
ボクは滅多に人に対してイライラしない。ボクと同じように道化を演じているS君に対しても個人的には同情していた。でも……それにしても休み時間になる度に、S君の襲撃に備えて警戒しているのがめんどくさくなってきた。そのうちS君と冷やかし連中は集団になって、ボクの動きを止めようとしてきた。
そんな毎日にうんざりしていたある日のこと。
自転車置き場に行って鞄をカゴに乗せて帰ろうとしている時のことだった。S君はニヤニヤしながら、いつものように近寄ってきた。
「神原くーん。もう帰るの? これからデートにしない?」
S君から声をかけられ身構えてから、ボクはいつと様子が違う点に気がついた。
あれ……いつも一緒にいる冷やかし連中がいない。
カレーに福神漬け。牛丼に生卵。とんかつにキャベツの千切りのように、S君の背後にセットのように存在していた、冷やかし連中の姿が全く見えなかった。
自転車置き場には、ボクとS君しかいない状況だった。
「神原くーん。キスしようよ!セックスしようよ!」
そんなことを言いながらS君は手を伸ばして体を触ろうとしてくる。他人の発言だけど書いていて恥ずかしくなってくる。でも高校生の冷やかしなんてこんな内容ばかりだった。
どうやらS君は自分が一人きりだということに気が付いていないようだ。
ボクは彼に体を掴まれないように避けながら「あること」を思いついた。
S君に対してやり返すなら今なのかもしれない。
いつも一緒にいる冷やかし連中がいない間に、S君に対して何らかの攻撃もしくは説得をして、こういったことを止めるように仕向けるしかない。
でも、どうすればいいんだろう?
と考えて、とっさに「ある言葉」が思い浮かんだ。そして思いついた「ある言葉」は、ボクの頭の中で冷静に整理される間もなく口から先に生まれてしまった。
「そんなにキスやセックスしたいのなら本気でしてあげようか?」
<つづく>