おのぼり二人紀行<18>

僕たちの周囲には何十人ものゲイがいた。

 

その人たちはイベントスタッフに案内されて列を作って順番に並んで地べたにしゃがんいた。みんな帽子をかぶったり、日傘を差したり、頭にタオルをかぶせたりして、きつい日差しを避けていた。僕たちも彼らと同じように列に並んで地べたにしゃがんだ。炎天下の下で、しゃがんでじっと待っているのは肉体的にも精神的にきつかった。

 

旅行3日目の朝。

 

僕たちはコンビニでおにぎりを買って朝食を軽く済ませて、電車に乗って横浜駅まで来た。そして横浜駅から乗り換えをして日本大通り駅で降り、そこからさらに5分くらい歩いて横浜産貿ホールの玄関前にたどり着いた。

 

そして炎天下の中、イベントの開場をじっと待っていた。

 

今から入場が始まるまでこの炎天下の中で1時間近く待つのか……

 

隣に座っている彼は受付でもらった案内冊子をめくって興味のあるブースに印をつけていた。他のイベント参加者も同じように冊子をパラパラとめくっては気になるブースに印をつけたりしていた。みんなこのイベントを楽しみにしているようだ。一方の僕はというと、その冊子を頭に載せて日よけ代わりに使っていた。周囲の人たちとのイベントに対する温度差を感じていた。どちらかというと僕の方はイベントそのものよりも、どういった人たちがこのイベントに来ているのかが気になっていたので、参加者を眺めて人間観察をしていた。「コスプレをされる方はこちらに集まってください」という運営者スタッフの掛け声を聞いて、大きめのカバンを持った人たちが入り口付近に集まっていった。既にコスプレをしている人もちらほら見かけた。

 

僕たちは「野郎フェス」の会場にいた。

 

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こういったイベントの開場待ちをするなんて、今まで一度も経験したことがなかった。

 

僕は日よけに使っていた冊子をもう一度手に取ってパラパラとめくった。どこかに知っている作家がいないか探してみた。でも、もともと同人誌といった物に興味がなかったので知っている作家は見当たらなかった。「そういえば、アマゾンで買った『同性婚で親子になりました 』を書いた『八木裕太さん』は出店してないのかな?」と思って、もう一度だけ作家一覧に目を通してみたけど、やっぱり見つからなかった。八木裕太さんは同人誌のイベントで相方と知り合ったと本に書かれていたので、このイベントにも出店していると思ったけど、どうやらいないようだった。僕は冊子を閉じて再び頭の上にのせて日よけ代わりにした。この冊子は身分証明書を見せて参加費を払ってからもらった物で一緒に紙のリストバンドがもらえる。会場に入る時はこのリストバンドを腕に巻いておく必要がある。

 

しばらくすると、彼が「これ見て」と言って冊子の隅を指刺して渡してきた。僕は「なんだろう?」と思って見てみた。

 

さっき探して見つからなかったはずの八木裕太さんの絵がそこに描かれていた。

 

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<つづく>