おのぼり二人紀行<20>

ついに野郎フェスの入場が始まった。

 

僕たちは1時間前から並んでいたので、割と早く入場が出来た。これは後から思ったのだけれど「このサークルの同人誌を買いたい」と、はっきりと目的が決まっている人は朝早く並ぶ必要はあると思う。特に人気作家のブースは早くも長い列を作っていた。それ以外の人にとっては並んでまで開場を待つ必要はないように思う。

 

僕たちは真っすぐに突き進んで一つ目の目的ブースにたどり着いた。

 

彼は念願の野郎フェスのブースの前にやっと立つことが出来た。そもそも野郎フェスが開催されるという情報を教えてくれたのは彼だった。

 

僕は「何か買わないの?」と言って、彼を見ると「うーん」と言う感じで固まった表情をしていた。

 

どうやら生まれて初めて同人誌を買うという状況に緊張している感じが見て取れた。試しに手に取ってページをめくっていたけど何やら悩んでいた。僕たちの周りには既に列を作っている人たちがいた。「早く買わないと人気作家の作品はすぐに無くなりそうだな」と思った。列に並んでいる人たちは、お目当てのサークル。お目当ての作品がはっきりと決まっているみたいだった。

 

彼はしばらく悩んだ後に「やっぱりいい」と言った。

 

僕たちは次の『郵便屋』のブースを訪れた。

 

「あぁー八木さんがいる」

 

僕の前には漫画の中のキャラクターに似た八木さんが座っていた。

 

野郎フェスの会場は蒸し暑かったので、八木さんは浴衣姿で団扇をあおぎながら座っていた。「そういえば相方の京太さんはいないのかな?」と辺りを見渡したけど、それらしい人の姿はなかった。ちょうど僕がブースを訪れた時点では、京太さんは席を外していたみたいで、後で他のブースを回っている途中に郵便屋のブースを見てみると、ちゃんと京太さんが座っていた。

 

僕はブースの真正面に立って、陳列された書籍の表紙を眺めた。

 

 

 

まだ僕たち以外はブースの前にいなかった。恐らくだけど、この日一番乗りの客だったと思う。

 

僕は「読んでいいですか?」と八木さんに話しかけて何冊か試し読みをさせてもらった。ページをめくりながらどれを買うのか決めて、後ろに立っていた彼に「これと、これと、これと、これを買うね」と指を差して言った。こういうイベントで物を買う時はノリが大切だと思っている。買うか迷うくらいならさっさと買った方がいい。僕は本を手に取って八木さんに差し出してお金を払った。

 

僕が買ったのは八木さんと京太さん。二人の日常生活が描かれた本だった。

 

f:id:mituteru66:20190703090728j:plain

 

本を受け取ってから後ろを振り向くと、彼は次のブースに移動しようとしていた。僕はもともと八木さんに話しかけるつもりはなかったのだけれど、ブースから離れる前に、陳列していた『同性婚で親子になりました』を指差して、「この本アマゾンで買いましたよ」と声をかけた。

 

八木さんは少し照れくさそうな顔をしていた。

 

<つづく>