カミングアウトした過去と他人との距離感<6>

ボクのもう一つの趣味。それは「美術館巡り」だ。


かなり美術的な話に逸れてしまうけど、いつか書くつもりだったので、この場で書いてしまうことにする。


初めて美術館に行ったのは『シャガール』という画家の展覧会だった。


シャガールの代表作が勢ぞろいした非常に密度の濃い展覧会だった。シャガールの描いた絵を眺めていると、自分の中で新しい別の感覚が生まれてくるのを感じた。それまでのシャガールという画家のことはほとんど知らず、JITTERIN'JINNの『プレゼント』という曲の中で、『あなたが私にくれたもの シャガールみたいな青い空』と歌詞の中に出て来るくらいの知識くらいしかなく、それと美術の教科書で代表作が載っているのを見たくらいだった。


このシャガールの展覧会以降、「美術館巡り」が趣味になる。


それから何度も美術館に足を運ぶようになって美術品そのもの魅力にも惹かれていったけど、同時に美術館という場所にも惹かれていることに気が付いた。展覧会の会場に足を踏みいれた瞬間から、まるで別世界にいるような不思議な気持になれた。


それ以前も美術には興味があって、なぜ美術に興味を持ったのかというと、それは高校時代にまでさかのぼる。


美術の授業中、油絵の風景画を描いている時だった。


それまでのボクは美術に対して全く関心がなかった。美術の授業中は同級生と雑談するのに夢中になって時間をつぶしていた。とりあえずキャンバスにいい加減に線を引いて、適当に色を塗って時間内に描き終えて提出さえすればよいと思っていた。自分の人生に美術なんか関係ないと思っていて歯牙にもかけていなかった。


いい加減な時間つぶしの気分でキャンバスに向かっている時のことだ。


左斜め前に座って絵を描いていた同級生のキャンバスがボクの目に飛び込んできて、その瞬間に全身に衝撃を受けたように震えた。


その生徒は写真を見ながら描いていた。


その写真には地元なら誰でも知っている樹木に覆われた神社が写っていた。


キャンバスには、木々の間から光が差し込んでいる神社が描かれていた。


光が当たっていると思われる個所のところどころには何も塗っていない空白があったりと、写真には存在しているのに、なぜか描かれていない線があったり、塗られていない色があったりと、一瞬見ただけではまだ描く途中なのかと思ってしまった。他の生徒の描く絵は、キャンバスに沢山の線を引いて、べたべたと色を塗り付けていて、彼の描く絵と他の生徒が描く絵は全く違っていた。


この時、ボクは彼の描く絵になぜ惹かれているのかよく分かっていなかった。その理由に気が付いたのはある印象派の画家の絵が好きになってからだった。


ボクの右隣の席では地元の美術教室に通っている同級生が絵を描いていたけど、その生徒は面白くもない平凡な絵を描いていた。ボクの心には何の響くものがなかった。左の席と右の席で絵を描いている両者の才能は歴然としていた。


こんなすごい絵を誰が描いてるんだろう?


驚きながら絵を描いている同級生の顔を見て、ボクは再び驚いた。


その絵を描いていたのは学年で有名な不良生徒だった。


<つづく>