おのぼり二人紀行<33>

僕の仕事は、職場の仲間たちの仕事を奪っている。業務の効率化を突き詰めていくと、人の手作業は少なくなってくる。それは直接的にではないにせよ間接的に同僚たちの仕事を奪って殺しにかかっているのと同じことなのかもしれない。

 

現時点では、派遣社員やパートの首が切られているけど、いつの日か正社員の同僚たちから「自分たちの仕事が奪われた」と言われる日が来るかもしれない。仕事や職場の人間関係が好きな分、自分がやっている仕事に対して矛盾を感じるようになっていた。

 

これから先、片足を今の職場に突っ込んだ状態で、もう片足は新しい生き方の模索に突っ込んだ状態でいる方がいいように感じるようになっていった。ただ、それも副業のようなものではなくて「お金を稼ぎたい」とか「スキルアップしたい」といった考えには興味がない。

 

貸農園で農業を始めてから、二人では食べ切れないくらい野菜が収穫できるようになった。

 

彼の方は、既に収穫した野菜を知り合いにあげたりしている。僕も職場の人たちにあげたいと思っている。少し前に、職場で「野菜が食べ切れないくらいあるけどいりますか?」と質問したところ、同僚たちから「欲しい」「もらえるならいくらでももらう」と言っていた。理由を訊いてみると、子供が何人かいる家庭では、スーパーマーケットで野菜を買ってもすぐに無くなるらしく、それでも「なるべく子供たちに沢山の野菜を食べさせておきたい」と思っているようだ。

 

どうせ二人では食べ切れない量が収穫できるのだから、もっと周囲の人たちにあげていきたいと思っていて彼も同じような考えを持っている。ゲイと側面が同じだけでなく、こういった考え方も似ている人と出会えて嬉しい。

 

そういった感じで身近な人たちを大切にするための手段として農業をしていきたいと思っている。それは別に農業である必要ではなくて、大工のようなものでもいいと思っている。大事なのは自分の手を使って、他の人のために何かをしてあげることのように感じている。

 

畑で自然と向き合って作業しているとあっという間に1時間や2時間が過ぎていく。

 

傍からは僕は精神的なストレスをほとんど抱えていないように見えるらしく、実際に僕自身もそれほどストレスを抱えていると感じてはいなかったりする。ストレスは人間同士の間で起こるもののような気もしていて、自分と他人を相対するから起こるように感じている。自然を向き合っていると感じることが少ない。

 

そもそも僕は「沢山の人と会うことが本当にいいことなのか?」と疑問に感じている。

 

むしろ「この人と絶対に出会いたい」と思った人と出会って、その少ない出会いを大切にしている方が重要だと思っている。

 

僕が他のゲイブロガーに無暗に会いたくないのには、いくつか理由があるのだけれど、縁があって出会った身近にいる人たちや大切にしたいと思っているのと、それに一人で文章を書いていることが大切だと思っているからだ。

 

<つづく>