出会ってから3年を迎えて<9>

彼と付き合い始めて1年半以上経って、僕のアパートで同棲を始めた頃のことだった。3月の最終日と一年で一番仕事が忙しい時期だった。職場の席に戻ってスマホを確認したところ、彼から不在者着信が入っていた。昼を過ぎた時間帯で「何の用だろう?」と電話をかけようかと思ったところ、続いてLINEのメッセージが入っていることに気がついた。

 

そのメッセージには

 

「交通事故にあった」

 

と書かれていた。

 

僕は急いで席を立って電波が届きやすい場所に移動して電話をした。電話がつながると救急車の中にいるらしくサイレンが聞こえた。彼の声に元気はないけれど、意識はあるようで返答はあった。実際にどんな状況で交通事故にあったのか、あまりに一瞬のことで覚えていないようだった。

 

仕事を一旦切り上げて彼の所に向かっている間、ある一つのことを考えていた。

 

10分くらい経つと、彼は病院に運ばれてきた。精神的に錯乱していたので少し側にいて話をしていた。それから彼からは母親に電話して欲しいと伝言を頼まれた。彼のスマホを借りて母親に電話したところ、すぐに病院まで来てくれることになった。

 

この当時、僕は彼の両親と既に何度か会っていて顔見知りになっていた。それから1時間くらいして彼の母親が病院に到着。それから1時間位で診察が終わって、特に異状もないため帰宅していいということになった。彼は警察と保険会社の立ち会いのもと、加害者の家族から謝罪を受けた。その後、大破した車の状況を確認してから母親の車で実家に戻ることになった。

 

彼の怪我はそこまで酷くはなく、エアバックやシートベルトで身体を打ち付けた箇所に痣は残っていたけど数週間で完治した。ただ彼の車は大破していて廃車することになった。事故の原因も反対車線を走っていた車が悪質な運転をしていて、別の車同士が接触した後、彼が走っていた車線に突っ込んできたという、もらい事故だった。

 

その日、仕事が終わってから、僕は彼の実家に行った。彼の両親に挨拶してから、二人で部屋にこもって彼が眠たくなるまでずっと話をしていた。しばらく話していると徐々に彼が眠そうなになってきたので、別の部屋に移動して眠りについた。

 

彼が病院に運ばれて来るのを待つ間、僕は「まだ死ぬのは早い」とずっと考えていた。

 

僕は彼に気が付かせてあげたいというか、そういったことが一つだけある。

 

せっかく生まれてきたのだから、このことを彼が分かるまで死んで欲しくないと思っている。これは僕がどんなに言葉を尽くして説明しても意味がないもので、それを彼自身が分かるしかない。それまでは死ぬのは早いと思っている。

 

<つづく>