兄貴への手紙<4>

 ボクは兄貴が好きだよ。子供の頃からボクのことを可愛いがってくれてたのは分かってた。

 自分の弟がゲイだったなんて兄貴にとっても嫌だと思うだろうけど、なんだかんだ言って兄貴は優しからボクがカミングアウトしても受け入れてもらえる自信があるんだ。でも……きっと兄貴にはカミングアウトはしないと思う。やっぱりまだ今の日本では同性愛者は居づらくて、兄貴はよくても嫁や嫁の家族や甥がどう思うか分からないし、少しでも迷惑をかけたくないんだ。

 身内から同性愛者が出たなんて嫌だよね?

 だから早いうちから距離を取ろうとしてるんだ。ボクがどうなってもいいように。

 実は……情けない話だけど、もしボクに兄貴がいなければって思う時がある。もし兄貴がいなかったら、ボクは自分がどうなろうと誰にも気兼ねすることがなく生きることができるだろうと思う時もある。でも、逆に兄貴がいてくれてよかったって思う時もある。もしボク独りだったら自制が効かなくなるのかもしれないから。

 ボクは兄貴と違って一年間に、一回か二回しか帰省しないから、会う度に父さんも母さんも老けていくのがわかる。でも最近は二人とも元気なんだ、やっぱり孫の力って凄いなって思う。孫が生まれてから疲れ果てつつも二人は変わったって思う。そういう意味でも孫を作ってくれた兄貴には感謝してるよ。
 
 父さんも母さんもボクに兄貴の家庭の話をしてきても、結婚しろとか、子供を作れとか一言も言わないんだ。ボクが気がついてないだけで、父さんもうすうすボクのことに感づいてるのかな? ボクが二十代の頃に「結婚するつもりはないよ」って父さんに言ったら慌てて説得してきたのにね。

 ボクに何か問題があっても兄貴に連絡しないけど、もし兄貴の家族に何か問題が起きた時は連絡して欲しい。ボクにできる限りのことはするからね。

<終わり>