ゲイブログを書く前後<17>

 このサイトを立ち上げて文章を書き始めて、すぐに困った出来事が2つ起こった。ボクの文章を書く能力の低さゆえに、どう書いたらいいのか?どう表現すればいいのか?分からないことがあった。過去にストーリーを書いた経験なんてなかった。完全に素人の状態で文章を書き始めて、すぐにこの2つの壁にぶつかってしまった。

 まずは1つ目の困った点。それは『風景描写』だった。

 自分が「文章を読んでいる側」だと気にもならなかった。でも自分が「文章を書く側」に立ってみると、自分がどんな場所にいるのか文章で説明するのが難しかった。同様に『人物描写』も難しいと思ったけど、それは見て思ったままを書けばいいから適当にごまかしながら短く書くことができた。例えば京都の野外のハッテン場になっている公園に行った体験を書いている時だった(『インターネットの同性愛世界』を参照)。きっとゲイの人でもハッテン場に行ったことがない人も多くいるだろうし、それにゲイでない人が文章を読むことも考えられて、ハッテン場がどんな場所なのかきちんと描く必要性があった。でもボクの文章能力ではとても無理だった。

 そもそも他の人たちは、どうやって『風景描写』を描いてるんだろう……

 本屋って行って適当に目についた小説を手に取ってみた。よくよく考えてみると参考にする文章の選択が間違っていた。参考にするにも風景描写が少ない適当なエッセー本にするべきだったのかもしれない……と今になって思う。

 ボクは小説に書かれた文章を見て固まってしまった。毎回こんなめんどくさい文章を書くなんてありえないと思った。

 野外のハッテン場になっている公園の出来事を書いた文章がある(『インターネットの同性愛世界』の6個目と7個目を参照)。ボクは暗い森の中を歩いていた。もし『風景描写』を参考にするのなら以下のような文章かもしれない。

僕は奇妙に非現実的な月の光に照らされた道を辿って雑木林の中に入り、 あてもなく歩を運んだ。そんな月の光の下ではいろんな物音が不思議な響き方をした。僕の足音はまるで海底を歩いている人の足音のように、どこかまったく別の方向から鈍く響いて聞こえてきた。時折うしろの方でかさっという小さな乾いた音がした。夜の動物たちが息を殺してじっと僕が立ち去るのを待っているような、そんな重苦しさが林の中に漂っていた。[村上春樹/ノルウェイの森]

 なんて……風流な世界なんだろう。

 でも現実としては、暗い森の中で男同士が肉体関係を持っているだけの風流も身も蓋もない世界なんだけど。

 ボクには場所が変わる度に毎回、比喩表現を交えながら『風景描写』をするなんて、とても無理だ……

 ボクは挫折しそうになる度に、「ヤシュウさんも文章を書いている。ヤシュウさんも文章を書いている。ヤシュウさんも文章を書いている。ヤシュウさんも文章を書いている。ヤシュウさんに夜襲されたい。あれ?。ヤシュウさんも文章を書いている。」と自分を洗脳していた。でも頑張って書いてみても風景を描写することはどうでもできなかった。それに真面目に風景を描写しようとすると、ちっともストーリーが進まないことになりそうだった。
 
 えぇ〜い! もう『風景描写』なんてどうでもいいや!

 そう開き直ることにした。ボクは『風景描写』を描くことを挫折した。そもそも何行にも渡ってダラダラと風景描写するのは不要だと判断することにした。それよりも肝心なのはストーリーを進めることだと判断した。

 それにしても自分がどんな場所にいて、どんなものを見て、どんなことを思ったのか、それを文章に書くのがこんなに難しいとは思わなかった。

 そして2つ目の困った点。こっちの方が『風景描写』よりもよっぽど悩ましい問題だった。

 それは『性描写』だった。

 このサイトを初めて1ヶ月が経った頃のことだった。恐らくこのサイトを立ち上げて、最も憂鬱な時期だった。何で憂鬱だったかというと、そろそろボクの「初体験」のことを書く必要性に迫れていたのだ。

<つづく>