絶対に会えてよかった<49>
ボクはずっと気になっていた彼がモテる秘密について質問をした。彼は40代を過ぎていて、お世辞にもルックスは、カッコいい方じゃなかった。それなのに店に来ている客の大半と寝ることに成功していた。よくあれだけ誰でも彼でも寝て病気にかかったことがなかったと思う。
「とりあえず少しでも好みのタイプだったら手を出したらいいんじゃない?」
彼は別に大したことじゃないという感じで言った。でもボクは「それが難しんだよな」と思った。
「そんなものなんですか?」
「どうせこんな店に来てる人たちなんて、誰かと寝たくて来ているだけだから、手当たり次第に手を出してたら、すぐに相手は見つかるよ。みんなヤる相手を探してるんだからね」
彼は一度断られた相手でも、諦めずに時間をおいて再度アタックして肉体関係を持っていた。そもそも断った相手の方も、一度断った人だと分かって肉体関係を持っているのか定かではなかった。店内は薄暗くて人の判別がはっきりしなくて、特に個室や大部屋にはなおさら明かりはなかっので判別ができなかった。
「君も廊下に立って誰かに誘われるのを待つだけじゃなくて、もっと積極的に誘えばいいのに?」
「えっ……」
「もっと積極的に誘ってみたら?」
「うーん。なかなかそんな気にはなれないです」
彼は「変なのー」という顔つきでボクを見て言った。
「じゃあ。そもそも君はなんでこの店に来てるの?」
「……」
「どうせこの店に来る人は誰かとヤるのが目的で来てるんだよ!」
「そうですね……」
「どうせヤるために来てるんだから、ヤらないと損じゃない?」
彼は別に思ったことを言ったまでで、深い意味はないようだったけれど、彼の言葉はボクの胸に完全に突き刺さってしまった。
その後、彼はマッサージに満足をしてお礼を言って個室から出ていった。
ボクは個室から出て廊下にいつものように立った。そして、さっき彼から言われたことが胸に突き刺さったままで呆然としていた。
こんな感覚は久々だな……いつの間にか忘れていたような気がする。
大学時代に有料ハッテン場に行き始めた頃。最初の頃は、興味本位とワクワク感にあふれていたけど、そのうち慣れてくると無感覚になって、あまり店に来る意味を深く考えなくなってしまった。
毎回、店に入るときには「今日こそ。いい出会いありますように!」と願掛けして入っていたけど、もっと深い意味で、店に来ること自体の意味については考えないようにしてように思う。
そんなこと言われるまでもなく、分かってるんだけどな。
彼の言ってることなんて、とっくに気が付いていた。でも他に選択肢がないように思えて、ずるずると引きずって同じことを繰り返していた。
じゃあ。この店に来ないでどうすればいいの?
と考えても、ボクには何も思いつかなった。
<つづく>