ボクは自分のルックスに自信がないのもあるけど、それを抜いたとしても好みのタイプだと思える人を手あたり次第に、誘ってみる気にはなれなかった。
誰でも彼でも相手を見つけては寝ている彼のことが羨ましいと思いつつも、「同じようになりたいか?」と問われれば、「ああはなりたくない」と答えるしかなかった。でもそう答えたところで「それなら何で君はそこに立っているのか?」と問われれば、「他に選択肢が見つからないからです」と答えるしかなかった。
自分の中でも、「考えていること」と「やっていること」が矛盾していることに気が付いていたけど、それがどうしようもないことも気が付いていた。
移動して大部屋に面した廊下に立っていると、40代の彼が他の男性と連れだって歩いてきた。そして適当に目についた布団に横になって抱き合い始めた。
今日は何人目なんだろう?
そんなことを思いながらもボクは薄いカーテン越しに二人の様子を眺めていた。
しばらくすると二人は徐々に激しくなってきてバックを始めた。
ボクと彼は反対の生き方をしていると思った。
ただ反対の生き方をしていると思ってみたところで、ボクには他の生き方を見つけることもできなかった。
どんなに若く見える人でも、いつか年は取ってしまう。
30代はこうやって立っていれば誰か相手が見つかるだろう。
これはそれまでに会ってきたゲイ仲間たちを通しての勝手な想像だけど、40代からは自分から誰か寝る相手を見つけていくようになるだろう。もう待っていても相手が見つかる年齢ではなくなっている。50代になればこういった店は出入り禁止になって、野外のハッテン場や銭湯にでも行って相手を見つけるようになるだろう。60代からは成人映画館にでも行って相手を見つけるようになるだろう。それ以降は、どうなるのか想像もつかない。性欲が枯れ果てるまでどこまで続くのだろうか。
ボクはなんでこんな場所に立ってるんだろう?
若い頃はともかく恐らく年を取っていけば、容姿も衰えていって自分を安売りするしかなくて、そうなると相手も、とんでもない相手と出会う機会が増えてくるに違いない。
そんな焦りは感じるものの、どうしていいのかは分からなかった。
ずっと疑問に思っていたけど、彼の何気ない言葉を受けて久しぶりに向き合うことができた。
これはこのブログを書き始める前の少し前の出来事だった。この疑問は、時間が経つにつ入れて徐々に大きくなっていって、それがこのサイトを始めるきっかけの一つにもなっていく。
きっと40代の彼はまだ同じ店に通い続けているだろう。
でもボクはもう彼に再会する道には戻りたくはなかった。
<つづく>