その掲示板サイトを見ながら「乱立」や「混沌」という言葉が頭の中を巡った。
駅のトイレ。デパートのトイレ。公園のトイレ。公園の駐車場。銭湯。サウナ。大学のキャンパス。その他の細かい場所。
さらに、その出会い系の掲示板サイトには、野外のハッテン場だけでなく、個人間の連絡のやりとり。要注意人物に関する情報など、あらゆる種類の掲示板が乱立していた。リアルタイムで次々と書き込みがされていた。
ゲイアプリの登場で野外のハッテン場は消滅するどころか、むしろボクの大学時代よりも細分化が進んでいるようで状況が悪化しているように感じてしまった。
この状況が、野外ハッテン場の末期なのか、むしろ全盛期なのかはボクには分からない。
ただ、ボクの大学時代で言えば、例えば京都の出会い系の掲示板を見ていても、呼び込みが書かれる公園は4つくらいに絞られていた。それに特定の公園専用の掲示板が立ち上がっているようなことはなく、あくまで京都全体の掲示板があって、その掲示板の中に「〇〇公園に23時から行きます」といった感じで書き込みがあるくらいだった。ところが今の掲示板サイトを見てみると、数えきれないくらい細かい場所の専用の掲示板が乱立している状況だ。
ちなみに、ボクらが行った公園の掲示板を見ると、毎日数十件ペースで書き込みがあった。福岡県内でも、かなり書き込み数の多い掲示板で人気スポットのようだ。その掲示板上には、公園内のどこの辺がスポットになっているのか詳しい説明が書かれていた。
よくよく見ると、ボクが今住んでいる地元の公園や銭湯の名前の掲示板も立ち上がっていた。こんな田舎の公園や銭湯の掲示板まで立ち上がっているのかと驚いてしまった。
ボクらは公園から一旦出て次のスポットに向かった。
公園のすぐ向かいに金網に囲まれた森があった。彼はその森を指差しながら「あの辺にも人がいるらしいんですよ」と言った。そして森の手前の角を曲がると一台の車が止まっているのに気が付いた。
全く人気のない暗い路地に、ぽつんと車が停まっていて見るからに怪しい感じだった。
その車のナンバープレートをよく見ると「福岡ナンバー」ではない「別ナンバー」だった。エンジンはかかっておらず車の中には人がいない様子だった。
「遠くから来てる人もいるんですね」
「この場所に来るためだけにわざわざ福岡市まで来ないだろうから、仕事のついでとかじゃないですかね?」
さっきの公園といい何台も車が停まっているのに、車の持ち主の姿はどこにも見当たらなかった。
ボクらは金網に沿って森を一周してから元の公園に戻ることにした。その間、やっぱり誰ともすれ違わなかった。
「みんなどこにいるんですかね?」
彼と話しながら公園の入口に戻って来た時だった。
一人の男性がこちらに向かって歩いてくる姿を目にした。
<つづく>