生ごみの収集癖

『コンポスト』を知っているだろうか?


もしかしたらコンポストという言葉を知っていなくても、「畑の隅の方に放置されている緑色のとがったゴミ箱のような物体」と言ったら思い浮かべることができる人がいるかもしれない。あの中には枯葉や生ゴミやらが入っている。それらをごちゃ混ぜにして発酵させて堆肥を作るものだ。


彼と畑を借りて農作業を始めたある日。僕はいつものように野菜の切りくずといった生ごみをゴミ袋に捨てていると、彼が「畑に撒けばいいよ」と言った。「畑に撒いとけば土に還って堆肥になるよ」と言い出した。


その日からである。


僕の脳みそに「野菜の切りくずや果物の皮とかは畑に撒けばいい」という、プログラムが組み込まれてしまった。「はぁー。この野菜の切りくずは、すぐに土に還るんだなぁ」とか、「へぇー。こっちの野菜の切りくずは土に還るのに時間がかかるから向かないなぁ」とか、同じ野菜の切りくずでも分解速度が違って、いろいろと気づく点があって興味深い。そうやってゴミを堆肥に土に還しているのをやっていると、まるで「土を育てる」という感覚になってきた。


「土を育てる」


まるでロールプレイングゲームのレベル上げをしているような感覚になってくる。


僕の性格上、ロールプレイングゲームをする時は「きちーん」とレベルをしてから次のステージに向かう性格だった。ただ一方でレベル上げなんて地道な作業はうんざりな性格でもあった。


子供の頃、「どうにかしてゲームのコントローラーのキーを自動で押す方法はないのか?」と考えて、コントローラの上下左右のキーの上に本を積み押しつぶし、更にコントローラーの決定ボタンを別の本で押しつぶして、自動でボタンが押されているような状態を作った。すると画面上のキャラクターが勝手に歩き回って、行き止まりになったら別の方向に勝手に動くという状態になる。そして敵と遭遇したら、ひたすら攻撃を繰り返す。そんな状況になるように、うまーく工夫してコントローラーを本でつぶして自動操作されるようにしていた。


その後、テレビの画面を消してもゲーム自体は裏で起動したままだから、僕は遊びに行ったり、本を読んだり、ラジオを聴いたりと、自由に遊んで、しばらくしてテレビの画面をつけると、一気にレベルが上がっている状態になっていた。たまにパーティーが全滅していることもあった。


話が逸れたので戻します。


そのうち生ごみが出る度に、「よっしゃ。ナスのヘタを手に入れたぞ!」とか「わーい。キウイの皮を手に入れたぞ!」とか、まるでレベルが上がったのと似たような感覚を味わいながら畑に撒き始めた。しかもロールプレイングゲームと違ってバーチャル世界ではなく、リアル世界なのだから喜びはひとしおだ。


「あなたが誕生日に欲しい物は何ですか?」と質問されたら、「うーん。生ごみですかね」と答えかない状況だった。


<つづく>